秋の大会は部長が指揮する、その理由

 それがもし、監督の一方通行で完結しているのであれば、聖光学院はおそらく12年連続で甲子園に出られるようなチームにはなっていなかったはずだ。聖光学院は、4人の指導者たちが斎藤監督の意志を自分なりに咀嚼し、指導理念を一本化できている。

 100人以上の部員を誇る聖光学院は、3つのカテゴリーで成り立っている。公式戦に出場するメンバーなどで形成されるAチームを斎藤監督と石田安広コーチで率い、下級生が中心のBチームは横山博英部長が指揮を執る。そして、育成チームは堺了コーチが担当し、岩永圭司コーチがBと育成の投手を指導する。

 だからこそ、チームがブレることがない。斎藤監督もそこに自信を抱き、コーチ陣に対して目じりを下げる。

「うちの強みであることは間違いないよね。スタッフミーティングでいちいち『俺のやり方はこうだ』とか言っていないのに、みんなが自分たちで感じ取り、しっかり吸収して、それぞれの指導に役立ててくれている」

 その斎藤監督の意志を最も熟知しているのが、1999年に斎藤監督が就任してから苦楽を共にする横山部長である。聖光学院に赴任してきた当初から、指揮官のミーティングでの発言をひと言も聞き逃さんばかりに傍らで耳を澄ましてきた。そして、Bチームの監督を任されるようになってからは、培ったものを横山部長なりに選手に落とし込んでいる。

 とりわけBチームは、8月の新チーム発足に伴いそのメンバーが自動的にAチームに昇格することもあって、秋の大会はそれまで監督を務めた横山部長が実質的に指揮を執る。聖光学院が成熟したチームになるための、いわば〝肝〟とも言える。

「Bチームとはいっても、部長の俺に監督を任せてくれる斎藤監督の懐の深さ。それを感じているからこそ、『あの人に下手なチームを引き継がせられない』って思えるんだよね。だから、俺だって本気で選手にぶつかっていける。それは、監督と一緒にAチームを指導している石田、育成の面倒を見ている堺、岩永も同じだよ」

 斎藤監督の懐の深さは、強いチームを築くためには不可欠な戦略である。これがあるからこそ、聖光学院の地盤は固い。

 指揮官が言う。

「秋は部長を立てるべき。毎年のことだけど、Bチームでは精神をすり減らして選手たちを叩き上げてAチームに送り出してくれているわけだから、俺はあまり出しゃばらない。それは育成だって同じだよ。信じているからね、横山やスタッフたちのことを」