ここ数年、国内で脚光を浴びている「オープンイノベーション」。言葉のおおよその意味は分かるものの、どことなく曖昧な響きで実際のビジネスに生かしづらいと感じている読者も多いのではないだろうか。

 今回はオープンイノベーションの意義や日本における浸透具合、そして今後の見通しについて、早稲田大学大学院経営管理研究科の川上智子教授(以下、川上教授)にお話を伺った。ビジネスマンにとってより自分ごと化しやすい、マーケティング的な観点からも「オープンイノベーション」を見つめ直してみよう。

日本は10年後れ? 現在はオープンイノベーション「再興」期

 自社の知見やリソースのみに頼るのではなく、組織外の技術や知識を掛け合わせることでイノベーションを起こそうとする「オープンイノベーション」。日本ではごく最近のトレンドのように語られることもあるが、実はこの言葉や概念を初めに提唱したヘンリー・チェスブロウ氏の著作『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて』(産能大出版部、2004年11月)の原著が出版されたのは2003年と、15年以上前にさかのぼる。

 また、消費財メーカーのP&Gはオープンイノベーションによって様々な製品やサービスを生み出している企業として広く知られているが、同社が「コネクト・アンド・デベロップ」と名付けたオープンイノベーション事業を始めたのも2001年の話なのだ。

 川上教授も「海外や学会ではブームが終わっている」と前置きした上で、現在は「再興」の段階ではないかと語る。「そもそも、日本は昔から“組織の垣根を超える”事自体は昔からやっているんですよ。産学連携なんかも、今に始まったことではありませんよね」。

 加えて「イノベーション」が声高に叫ばれるようになった現状についても、やや違和感があると語る。「それって、企業が昔から重要視していたことですよね。私が企業の基礎研究所で働いていた90年代時点でも他社や大学との連携は普通にありました。ただし、どちらかというと長期安定的な関係で、フレキシブルに相手を変えるということはあまりしていませんでした。イノベーションやオープンイノベーションといった言葉がブームになったのは最近ですが、自社だけではイノベーションは起こせないという考え方は昔から日本にあったものだと思います」

 川上教授の推測によれば、日本は特にR&Dへの投資が利益に直結しづらい風土の中、最近は先の見えない基礎研究を自社で抱え込むよりも、市場の利益につながりやすい研究成果を効率的に入手する方に焦点が当たるようになってきた。これによって改めてオープンイノベーションの重要性が叫ばれるようになってきたのではないだろうか、ということのようだ。