技術の追求のみに留まらず、「売り方」のシナリオを描け

 昔からある潮流ということで、現在は検証段階を超えて実践段階にあると言えるだろうが、実際には多くの企業が二の足を踏んでいる状況だ。オープンイノベーションを成功させるにはどうしたら良いのだろうか? 引き続き、マーケティング的な観点から語っていただいた。

「シーズを探してくるのも(イノベーションの)一側面ですが、“売り切る”部分まで成功させないとイノベーションとは言えません。研究や開発の段階で、生まれた技術を“どこに”、“どう”売るかまで考えておかないと、他社に先を越されてしまう可能性が高まります」と川上教授は指摘する。この「売り方」のリソースが自社にないケースが多いのだという。

 新製品やサービスは、市場に出した直後の売り上げはコスト回収的な面が強くなるため、2回目、3回目と継続的に販売できなければ利益にはならない。あらかじめ3パターン程度「売り方」のシナリオを用意しておき、状況に応じてフレキシブルに選択できるようにしておくのが理想だという。自社でシナリオを用意するのが難しければ、オープンイノベーションで外部リソースを使えば良い。

 出口戦略まで考え、成功させなければオープンイノベーションとは言えない。そのため、マーケティング思考を持った経営陣が「何のためにオープンイノベーションを行うのか」「どうビジネスにしていくのか」の指針(ビジョン)を示すことが必須となる。

「消費者」も巻き込んでチームメンバーに

 オープンイノベーションというと「川上」の部分、つまり技術や製品を生み出す段階で外部のリソースを活用するというイメージが強いかもしれないが、今は「川下」の部分で消費者を巻き込んだオープンイノベーションが行われる傾向にあるという。

 例えば、2000年に始まった米国シカゴのECサイト「Threadless」の仕組みはその先駆けだ。サイト上でTシャツデザインのコンテストを行い、ユーザーに投票を呼び掛けるのだ。多くの票を集めた作品は製品化され、デザイナーに賞金が支払われる。人気が出て追加生産となれば、その分の報酬も支払われる仕組みだ。このように、ネット上のオープンコミュニティを用いて企業と消費者との垣根を取り払おうとする流れは大きくなってきている。

「最近、企業が私たち(消費者)にいろいろなことをやらせるようになってきました。従来組織の中でやっていたことを、私たちにアウトバウンドしているわけです。結果的に消費者の仕事は増えているけれど、“やらされ感”がないから増えてきているし、当たり前に受け入れられていますよね。こうした取り組みは、消費者と一緒に価値を作っていくという考え方に基づいています」

 アンケート調査等に留まらず、場合によってはThreadlessのように、企画の段階で消費者に関わってもらう手法が取られるようになってきた。以前から重視されていた「消費者の声」がより根元の部分から活用されるようになってきたということだ。

 従来は企業の「外」にいた消費者に、同じ価値の創出を目指すチームメンバーになってもらう。外部リソースを用いてイノベーションを目指すという面からすれば、こうした施策も立派なオープンイノベーションと言えるだろう。