はたと気づいた。そうなのだ。本書が扱う内容はとても重い。絶対に許してはいけないことが平気で教育現場で起きていて、しかしその詳細はほとんど表に出て来ず、具体的な解決方法は見えにくい。読めば読むほど、無力感を覚えるばかりなのだ。通常自分が編集した本が出来上がると、周りに薦める。ところがこの本ばかりは多くの人に読んでもらいたいと願いながらも人に薦めるのをためらう気持ちがあった。とくに相手が女性である場合には。

 小島さんに解説をお願いする際、私は「重い本」であることを無意識のうちに伝えなかった。小島さんが躊躇するかもしれないとおそれたからだろう。電話をいただいたあと、小島さんにお詫びのメールを送った。

小島慶子様

 さきほどはお電話ありがとうございました。(中略)池谷さんのこの原稿を見たときに、編集に携わる職業人として書籍化にあらゆる手を尽くしたいと思いました。多くの人にこの問題を知ってもらいたいと思いました。

 とくに、一番に知ってもらいたいのは、実際にスクールセクハラに遭ってるかもしれない子の母親です。先生はえらいと信じ込んで大人になった母親に向けて、えらくない先生がいて、そうした酷い大人によって自分の子が決定的に傷つけられる可能性があるということを知ってもらいたいと思いました。さらに言えば、親でなくてもいい、嫌な思いをしている子供のそばで、「間違っていることを間違っている」と言える大人が増えてほしい。または、本でも記事でも、「声をあげていい」と当事者に伝えたい。

 そんな気持ちでこの本の編集に携わりました。そしてこのたび文庫にするにあたり、どなたに解説をお願いしようかと考えた際、自然と小島さんを思い浮かべました。世の中で起きている酷いことを直視し、それに「NO」と言える大人。この人が言うなら、自分も「NO」と言えるかもしれないと思わせてくれる大人。それが小島さんという存在です。これまで様々な形を通しての小島さんの発信によって、様々な形で多くの人が救われていることと思います。