(3)不可逆性

 最後の特徴は、不可逆性である。知識を一度知ってしまったら、以前の状態に戻ることはできない。もちろん、人間だから忘れてしまうことはある。しかし、人間は意図的に忘れることはできない。ある物事を知ってしまったら、「なかったことにする」というのはできないのである。

どこまでをオープンにし、どこまでを自分のものにするか

 知識にはこのような非競合性、非排除性、そして不可逆性という性質があるため、オープンイノベーションではどのようにすり合わせるかということが大切なポイントとなる。

 知識をいったんオープンにしてしまうと、際限なく拡散してしまう可能性がある。そのため、戦略的に重要な知識や情報であればあるほど、オープンにすることはリスクを伴う。しかし、新しいアイデアを深めていくために大切な知識であればあるほど、コラボレーションのパートナーとの間で事前にオープンにすることが重要になる。ここに大きなジレンマが生まれる。

 知識の利用を事後的に、そして選択的に制限することは難しい。どこまで知識を共有化するかはマネジメント上の重要な課題となる。

 もちろん、機密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を結び、パートナーの間で重要な知識の保持を図ることはできる。しかし、多くの組織とコラボレーションをする場合には、機密保持契約を取り交わすコストは小さくない。その契約をモニタリングするコストもかかる場合もあるだろう。そもそもパートナーとの間で機密保持契約を交わす前の段階でも、コラボレーションについてある程度の知識の共有は必要になる。

 後編(「異なる組織の知識をどうすり合わせるか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54255)では、このようなポイントを念頭においた上で、どのように知識をすり合わせていくかについて見ていこう。

(*)オープンイノベーションの知識マネジメントについて詳しくは『オープンイノベーションのマネジメント』(米倉誠一郎・清水洋著、有斐閣、2015年)を参照いただきたい。