ANAホールディングスでアバター事業をけん引する深堀昂デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、ロボット技術、センサー、ハプティックス(触覚)技術などを駆使したアバター(分身)を通じて、遠く離れた場所に人が“瞬間移動”する。そんな未来を描いているのが、ANAホールディングス(ANAHD)が2018年3月に掲げた「ANA AVATAR VISION」である。

「瞬間移動なんてSFの世界でしかあり得ない」と思うかもしれない。だが、“移動”を物理的に人の居場所を変えるのではなく、「人の感覚や意識のテレポーテーション」と捉えてみたらどうだろうか。

 例えば、遠隔地に設置したアバターを操作して誰かと握手をする。そのときにアバターが感じた相手の手の動きや力加減を正確に人にフィードバックできれば、実際に握手しているのと同じような感覚が得られるだろう。さらに、ヘッドマウントディスプレイを装着し、アバターが対面している相手の映像をリアルタイムで映して視覚と触覚を一致させれば、遠隔地にいることを意識せずにコミュニケーションを図れるのではないだろうか。

 航空輸送が本業のANAHDが、このようなサービスに挑むのはなぜか。大手による寡占化が進みつつある航空業界だが、「エアラインを実際に利用している人は世界人口の6%程度に過ぎないとされる」とANAHDの深堀昂デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクターは話す。

 航空機にビジネス客や旅行客を乗せて世界各地に送り届ける従来の旅客ビジネスの利用客の拡大にはどうしても限界が出てくる。言うまでもないが、基本的に空港がない場所へはたどり着けないし、飛び立てないからだ。「こうした物理的な制約を超えるには、“移動”そのものの捉え方を転換する必要がある」(深堀氏)という大胆な発想が、最新テクノロジーを利用した「ANA AVATAR VISION」に結び付いた。