「会社人間」にならず自律的なキャリア形成を

 ディスカバリー休暇制度によって、副業が促進されることも狙う。「副業の準備や試しにやってみる期間として、ディスカバリー休暇を利用するとよいでしょう。分割取得もできるため、副業準備と親和性が高いと思います」(萩原氏)。

 しかし、ここまでして副業を推進し、社員が社外で活躍できるようになった結果、MSDを辞めてしまうということは危惧しないのだろうか。

 そうした疑問に対し、萩原氏は「社員には『会社人間』を目指すのではなく、『自律的』にキャリア開発をしてほしいという願いがあります。なにより、社員をしばりつけることはできない、というのが私たちの考えです。『MSDでしか働けないからMSDにいる』のではなく『他でも働けるけど、MSDで働きたいからMSDにいる』という人材になってほしいのです」と話す。

 そして、副業や長期休暇を通じて社外で活動する社員の存在によって、他の社員が刺激を受け、社内が活性化することも大きな狙いの1つだという。「ディスカバリー休暇を使って短期の語学留学をするという女性社員の話を聞いたある男性社員が、自分たちも休んで何かしないといけないのか、やりたいことがなくてどうしようと言っていたと聞き、狙い通りだと思いました。副業や長期休暇の利用を促すことが、社員が自身を見つめなおす良いきっかけにもなるということです」(萩原氏)。

 このように、副業や長期休暇を強く推進する同社。それだけに、ビジネス環境の変化の激しい昨今、社員が過去の延長線上で仕事をすることに対する危機感が強いともとれる。

 実際、これから求める人材像は、「変化に柔軟かつスピーディに対応でき、それを楽しめる自律性の高い人」だと言う。そうした人材へと社員を成長させるために副業や長期休暇が必要というわけだ。もちろん、制度整備を通じて、優秀な人材を惹きつけられるという面もあるだろう。

 萩原氏は、今後の展望を次のように語る。「副業しているのは、3500人中のまだ数十人、長期休暇の利用者もまだまだ少ない。副業や長期休暇取得が当たり前となるくらい、もっと浸透してほしいです」。

後編へ続く)