「探査機が暴れる可能性」―地上からの緊急脱出指示も準備

 実はミネルバⅡ1は、初代ミネルバのリベンジでもある。13年前、初代はやぶさに搭載されていた探査ロボ・ミネルバは、分離はされたものの、小惑星イトカワに着地することはできなかった。その悔しさを、現場にいた津田プロマネも久保田教授も味わっていた。

「2回目のチャンスを与えてもらえることは、工学研究者として恵まれている」(久保田教授)

 起こった事実を真摯に受け止め、どうすれば成功するか考えなおした。1台だったローバーを2台構成に。初号機では地上からの遠隔操作で分離信号を送ったが、はやぶさ2では探査機側の自律判断で探査ローバーを放出するようにした。

 万全を期したものの、不安要素はあった。1つは、はやぶさ2のタッチダウンリハーサルでレーザー高度計がうまく機能せず、高度40m以下まで降下する予定が高度600mで中止したこと。チームは議論を重ね原因を解明。高度計の感度を高めることで正しく計測できるように設定を見直した。そしてリハーサルをやり直しすることなく、ミネルバ投下を実施した。

 高度計は正しく作動し、小惑星表面すれすれの55mで、はやぶさ2は正常にミネルバⅡ1を分離した。これほど小惑星に接近すると、何かトラブルがあった場合は地上から指令を送っても間に合わない。通信に片道約18分かかるからだ。はやぶさ2は完全自律モードに入った。その領域で「はやぶさ2は暴れる可能性もあった」と津田プロマネは明かす。

「低い高度では、コンピューターが1つ計算を間違えると、地表に対して加速し、ぶつかることが容易に起こる。判断を誤ると急に暴れ始めることもありえる。アボート(緊急停止)指示を地上から送ることも想定していました」

はやぶさ2の探査ローバー分離ミッションを説明する津田雄一プロジェクトマネジャー(左)。

 基本的には、探査機が自分でアボートしないと間に合わない。しかし、探査機が自動でアボートを行わない非常事態には、地上からダメ押しで送信することも準備していたとは。いかに緊張する運用だったかが想像できる。