「オープンイノベーション」を流行で終焉させてはいけない

「ほんの6年の間にCrewwにとって競合といえるようなアクセラレーターが次々に登場しました。オープンイノベーションの市場が膨らみつつあるという状況はすばらしいことだと思いますが、同時に気がかりなこともあります。『オープンイノベーション』や『アクセラレーション』という言葉を耳にする機会は増えたものの、これらの言葉が意味するものや、定義づけが曖昧なまま進行している傾向が見受けられます。『オープンイノベーション』や『アクセラレーション』を流行で終わらせないためにも、市場が出来上がりつつある今こそ、もっと定義を明確にさせていかなければいけないと強く感じています」

 そんな伊地知氏に単刀直入に聞いてみた。「現代の日本のオープンイノベーションが抱えている最大の課題とは何なのか」と。迷わず返ってきたのは「ノウハウの共有」だった。「私たちの取り組み方がオープンイノベーションにとって唯一無二の正解だとは考えていませんが、一貫して掲げてきた理想は『自走』です」

 大企業やスタートアップだけでなく、国や地方、大学や研究機関など、多様な存在が共創する中でイノベーションを実現していくのが、オープンイノベーションという概念の基本。複数のプレーヤーが相互に関連し合うことで変革を呼び起こす動きではあるものの、それぞれが自走できなければ継続的な成果には繋がらない、というのが伊地知氏の考え方である。目新しいスタートアップをM&Aするだけでは、大企業が変革のDNAを社内に芽生えさせることは不可能だし、「大企業との連携」は名ばかりで、下請け企業のようになってしまうようなスタートアップでは市場に新風を起こすことも叶わない。それぞれが自らの力で走れるようになって、初めてオープンイノベーションは成功する。そして、そのために必要なのが「ノウハウの共有」だと伊地知氏は言う。

「”crewwコラボ”では、オープンイノベーションを『自社の有する経営資源や技術に頼るだけでなく、社外と連携することにより、革新的なビジネスやサービスを共創していく仕組み』と定義づけており、新規事業の創出をハンズオフでサポートしています。手厚くハンズオンで関与していくことが自分たちの付加価値だとアピールするアクセラレーターやコンサルティングファームも多く存在しますが、私たちは、企業が将来的に新規事業創出を自社で開催できるようになることがイノベーション創出のエコシステム構築につながると考えているため、あえてハンズオフという方法を採用しています」

 大企業が求めているものとスタートアップが必要としているものを適宜サポートしていくものの、あくまでも双方の当事者がオーナーシップをもって、提供できるリソースや必要としている成長機会をオープンにしながら最適な着地点を模索していくことで自走力を身につけていく。伊地知氏が理想とする姿はそこにある。

「ハンズオフだからこそ、過去6年で100件以上ものプログラムを実行することができたのだと考えています。また、これまで実施してきたプログラムを通じて『成功するポイント』や、必ず陥る『つまずくポイント』など、オープンイノベーションに関するノウハウをいくつも手にすることができ、それらノウハウを他の企業に極力公開してきたことで、”crewwコラボ”をさらに熟成させることができました。しかし、まだまだ企業の間でノウハウの共有が進んでいません。今、私たちが注力しているのは、まさにこの課題の解決です」

(後編につづく)