ウーバー・テクノロジーズやエアビーアンドビーなど、デジタルネイティブなディスラプター(創造的破壊者)がメディアを騒がせている。タクシー業界や宿泊施設、旅行代理店など、既存の業界を一掃してしまいかねないインパクトを秘める。だが、そんな彼らすら埋没しかねないほど、デジタルを核とする変化のスピードは速い。その中にあって企業が取るべき戦略とはどんなものか。ITで企業の成長を促すTISを率いる代表取締役会長兼社長の桑野徹氏に聞いた。

IT に求められる役割自体が変化している

TISインテックグループの中核であり、クレジットカードを中心とした金融系基幹システムで圧倒的なシェアを誇るTIS株式会社。わが国のエンタープライズITを担ってきた同社は、AI や IoT、ブロックチェーンなど、革新的なテクノロジーが急速に広がる現状をどう見ているのだろうか。

TIS株式会社 代表取締役会長兼社長 桑野 徹 氏

TIS代表取締役会長兼社長の桑野徹氏は、今起こっている競争環境の激変をこう例える。「重要な変化は、以前ならテクノロジーの限界や制約で、実現したくてもできなかったことが、次々に可能になっている点です。例えば通貨取引を行うには、これまでインターネットに構築されたインフラやプラットフォームをハブに中央集中型の仕組みで取引を支えてきました。これを根本的に変化させたのが、分散型台帳技術と言われるブロックチェーンです」

ブロックチェーン技術はこれまでの金融サービスと異なり、特定の仕組みを通さず当事者同士が個々に取引するため管理者や手数料がいらず、システム障害も原理的には起こり得ない。こうしてITが革新的な技術を可能にしたこと自体が、ITの役割の変化と桑野氏は見る。
「これまではコスト削減や生産性向上といった “既存のものの改善” が、ITの主なテーマでした。しかしこれからは、“新しいモノやサービスを創出する”のがITの役割になっています」。その時企業は、自社の成長戦略に対し、どのようにITを組み込んでいくべきだろうか。
 

鍵は“スピード” と “トライ&エラー”

次々にイノベーションが起こる現代においては、企業もこれまでの製品や技術、そしてビジネスモデルに固執してはいられない。新たなブレークスルーを実現するために桑野氏はこう助言する。

「企業が成長を続けていくためには、既存のビジネスを守り育てる一方で、新たなマーケットを創造する不断の試みが欠かせません。ここで重要なのが “スピード” と “トライ&エラー”です。新規ビジネスには実行してみて初めて分かる部分が非常に多く、課題発見と試行の繰り返しを、市場の変化に負けないスピードで進めていくことが不可欠です」

とはいえ日本企業では、前例踏襲や長い決裁フローが、しばしばスピーディーなイノベーション実行の妨げとなる。私たちがグローバル企業に負けないスピードを獲得するには、どうしたらよいだろうか。桑野氏は、経営者の意識こそが問われているという。

「よく組織論で『いかに権限委譲するか』がテーマになります。マネジメントは権限移譲できますが、リーダーシップは移譲できません。イノベーションに求められる“スピード” と “トライ&エラー”を可能にする組織には、経営者のリーダーシップこそが必要です。経営者が自らの抱いている問題意識や危機感、そして“ありたい姿”を現場にどう伝え共有できるか。そして、『この仕事をやりきる』という強い決意を、ステークホルダーを含めた関係者全員にどうやって行き渡らせるかがポイントです」

必要なのはトップが進むべき方向性を明確に示し、スタッフ一人ひとりが同じ意識を持ちながら、状況に応じて柔軟に動くこと。とりわけ大企業は、スタートアップのようなスピード感と柔軟性にあふれる組織をいかに実現するかが、成功の鍵を握ると桑野氏は示唆する。
 

異業種やスタートアップをパートナーにする柔軟さが必要

経営の役割と組織が固まれば、次は革新的なビジネスを生み出すIT戦略の実行となる。しかし、ここにも日本特有の構造的課題がある。今、ITを前提に、スピード感と柔軟性をもって事業を進める時、取り組み方に大きな変化が訪れている。それが「エコシステム」という概念だ。これまでの固定的なサプライチェーンや、外注先といった関係性ではなく、さまざまなスキルや知見を持った連携先と常につながりを持ち、プロジェクトごとに最適な組み合わせを選択して推進するイメージだ。日本式の自前主義、自陣囲い込みの戦術とは正反対だ。

パートナーと緩やかに連携しながらも、目指すところは「提供価値の最大化とリリースまでのスピード」で一致し、それがかなうなら、異業種、大学の研究室、スタートアップなど、連携先は問わない……。この根底にあるのは、日本の産業が成功体験を捨てて根底から変革、世界から孤立せず先の時代へつないでいくという意識だろう。桑野氏は、オープンイノベーションも考え方は同じであるとして、次のように語る。

「これからは業界や企業の垣根を取り払い、もっと活発に人材交流が行われるべきだと考えています。新しいことにチャレンジしたいのに、自社にその環境がないというなら、実行のために一度社を離れて最適な環境で取り組み、完了したらまた戻ってくるなど、企業にはもっとオープンで柔軟な仕組みが必要です」

TISは今、これからの企業のロールモデルともいえる改革を進めている。その理由について桑野氏はこう説明する。

「どんなサービスが求められているかまだ明確になっていない状態で、企業自身が気付いていないテーマやニーズを分析・発見し、新しいソリューションとして提案するのは、その企業の業務スキームとITの双方に精通したリソースが必要です。そのためには、われわれ自身がまず柔軟な意識で既存の垣根を超える感覚を養う必要があります」(桑野氏)

TISは2017年4月、「ビジネス イノベーション事業部」を新設。コンサルタント経験者や事業会社で新規ビジネスを立ち上げた経験を持つ人材を増やし、業種・業態問わずイノベーションに挑む企業と疾走できる組織を整えた。これによって企業のIT戦略・イノベーション創出のパートナーとしての存在感を鮮明にしようとしている。
 

パートナーの質が企業の成長を左右する

桑野氏は一方で、イノベーションによるビジネス創造は、今やすべての日本企業にとっての必須課題だが、見落としがちな点がある、とも警告する。新しいビジネスを立ち上げるのは良いが、それを支えるシステムはそこがゴールではなくスタートだということだ。サービスイン後の運用と不断のブラッシュアップがなければ、どんな斬新なアイデアも早々に陳腐化してしまう。ビジネスモデルのライフサイクルが短命化しているためだ。

TISが得意とするクレジット決済など金融系ソリューションの分野はもちろん、生活者のニーズやトレンドを捉えたネット通販システム、リアル店舗をも含めた顧客の購買活動を詳細に補足するDMPや顧客接点強化に欠かせないアプリなど、運用フェーズに入ってからが本当の正念場となる。

TISは、業界で信頼感を得てきたリーディングカンパニーだからこそ、ビジネスを立ち上げ磨き続けることの大切さを知っている。

「ビジネス創造とシステム開発・運用の両輪を持ち、企業と併走する戦略パートナーこそが、これからのビジネスを成長させる重要な存在です」
桑野氏の言葉は、実を伴う重みのある言葉だ。


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