さらば硬いイクラ! 通電加熱が水産食品を変える

「鮭の卵」への眼差し(前篇)

2018.09.24(Mon) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 2018年度から、プロジェクトは技術開発から普及に向けた段階に移り、岩手県水産技術センターが引き続き普及事業に取り組んでいる。

 イクラに通電加熱技術を導入する水産加工企業も現れた。研究開発が進み、イクラにパイプ式も適用されれば、企業は「少量のイクラ作りではバッチ式」「大規模にはパイプ式」といったような選択も可能になる。

産業界に寄り添った研究を

 プロジェクトにより、イクラでは「生の食感」を保ったまま処理できるようになった。イクラのほかにも、ウニの凍結による身解け防止やメカブの色調保持、さきイカの色調向上やけば立たせなどで、通電加熱技術の実用化に向け算段が立った。実際、メカブについては通電加熱技術を取り入れて品質改善とともに生産の低コスト化を図った企業もある。1~2分足らずで目的の温度にできる通電加熱ならではの食品加工が広まろうとしている。

 岡﨑氏は、国の支援を受け、上田氏のような地元をよく知る研究者の協力を得て、水産加工企業、研究者、機械開発者が連携できたことが、プロジェクトの大きな成果だったと強調する。「連携なしに、食品の品質にまで踏み込んで改善していくことはありえません。さまざまな食品で成功事例を示すことができました」。

 現在は、通電加熱技術の導入に手を挙げる水産加工企業が続くのを待っている状況だ。

 イクラにも当てはまるが、海産物とは“不安定”なもの。獲れる量も地域も年により変動するし、成分の多様性や分布の不均一性もある。また、食材・食品になったあとの状態も変化しやすい。「ここには深い意味があります。これらが水産物の特異性を典型的に表しているからです」と岡﨑氏は言う。

 不安定な特性がある分、水産物の研究では分析結果やモデルがなかなか定まらないことも多々ある。実利が早く欲しい水産業界では、普遍的に当てはまるような理論を待っていられない実情もあろう。「このプロジェクトでは、できるだけ産業に寄り添い、開発した技術を現場に落とし込むことを何より考えてきました」。

 水産食品に技術が導入されることで、その食品の品質が高まる。それにより水産業は活性化されるし、消費者もその食品をより美味しく食べることができる。その1つの「成功物語」が始まったところだ。

いかがでしたか?
JBpress をブックマークしましょう!
Twitterで @JBpress をフォローしましょう!
Facebookページ に「いいね」お願いします!

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。