さらば硬いイクラ! 通電加熱が水産食品を変える

「鮭の卵」への眼差し(前篇)

2018.09.24(Mon) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

東北地域の水産業復興に加工産業の活性化を

 より多様な水産加工食品に通電加熱を使うことができれば、それまでの加熱法で実現できなかった加工が可能になる。それは、食品の品質向上や低コスト化、ひいては水産業の活性化につながる。

 岡﨑惠美子氏は、農林水産省が東日本大震災の復興事業の一環として実施した委託事業「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」における岩手県での漁業・漁村型プロジェクト「地域資源を活用した省エネ・省コスト・高付加価値型の水産業・水産加工業の実用化・実証研究」の1テーマに携わってきた。通電加熱技術の水産食品へ広範な実用化を目指し、その研究の取りまとめ役を担った。岩手県水産技術センターや、通電加熱装置を製造するフロンティアエンジニアリング、また地元東北の水産業者などとの連携プロジェクトだ。

岡﨑惠美子(おかざき・えみこ)氏。水産学博士。東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門教授。水産庁東海区水産研究所(現・水産総合研究センター中央水産研究所)ならびに長崎県総合水産試験場水産加工開発指導センターで、水産物の利用加工や品質評価に関する研究に携わる。2010年12月、東京海洋大学教授に着任。共編書に『通電加熱による水産食品の加熱と殺菌』『水産物の先進的な冷凍流通技術と品質制御』(ともに恒星社厚生閣刊)などがある。

 研究開始は東日本大震災から1年後の2012年。岡﨑氏は当時の東北地方の水産業の状況をこう話す。

「魚市場や冷凍加工施設などのハード面では徐々に復旧し始めていましたが、水産加工業界ではすでに販路が変わってしまい、以前と同じものを作っても売れにくい状況でした。東北地域の水産業復興に向け、加工産業を興して、付加価値の高い食品を作って売ることが求められていました」

 通電加熱技術のように新しい可能性を持った技術をより幅広く海産物に使えるようになれば、新たな特長を持った水産加工食品が次々と誕生する。それにより、東北の水産業の復興は前進する。

 かねてから鮭漁が盛んな岩手県では、イクラの生産量が高いものの、産卵回帰するサケの成熟度が高く、イクラが硬くなりやすいという問題があった。通電加工の活用がイクラにも向けられた。

「イクラの高付加価値化に関する研究は岩手県水産技術センターを中心に行われ、研究員の上田智広氏が精力的に取り組んで来られました」と岡﨑氏は言う。そこでイクラの通電加熱について、上田氏に話を聞いてみた。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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