カリスマ指導者として仰がれてはいても、現在は国会議員でも内閣の一員でもない。かつては部下だったアズミン氏の方が内外で政治的にも権力や政治力を発揮、アピールしているのだ。

 13日までベトナム・ハノイで開催されたWEF主催「世界経済フォーラムASEAN会議」にはマハティール首相の代行で出席。ベトナムのフック首相とも会談し、国際的な外交舞台でも存在感を示し始めている( https://twitter.com/azminali)。

 そんな状況下で、アンワル氏が国会議員に早期復帰することは、首相への禅譲の要件を満たすとともに、自らの政党内での政治的権力を法的にも定めることになり、アズミン氏を統制することにもつながる。

 しかし、アズミン氏も経済大臣としてシンガポール~マレーシア間の高速鉄道計画中止でシンガポール政府と正式に調印を果たし、世界のメディアを前に、敏腕、国際派の政治家として華々しくデビューした。

 「アンワル氏を全面支持する」と、アズミン氏は表面的には言うものの、実績がそうはさせない可能性がある。

 アンワル氏は、もし党代表選の副総裁選でアズミン氏が敗北した場合、党員の多くを引き連れ、マハティール氏の政党に鞍替えするかもしれない、と心配する。

 東南アジア専門の政治アナリストは「マハティール氏がそれを目論んでアズミン氏を経済大臣に抜擢した可能性がある」とさえ言う。

 今回のアンワル氏の勇み足とも言える国政復帰への布石となる下院補選出馬の背景には当然、93歳という超高齢のマハティール氏の不測の事態を想定していることもある。

 その場合、マハティール氏の秘蔵っ子であるアズミン氏が次期首相候補に浮上しかねない。アンワル氏にとっては、悩ましい新たな“不測の事態”になりかねないのだ。

 マハティール氏とアンワル氏はかつての古傷を癒し、共闘したと互いに傷を嘗め合う。しかし、両者をよく知る政界の重鎮は筆者に対して、「2人が、過去を本当に水に流したとは思えない」とも言う。

 今回の下院補選では選挙費用に数百万リンギの血税が費やされるという。

 1兆リンギ(約27兆円)の借金の「不良債権」を前政権から引き継いだマレーシアの国民の間では、「国内財政が困窮する今、早急の選挙は必要なのか」という批判も出てきている。

 また、アンワル氏が国会議員に復帰すれば、マレーシア政界で初の夫婦(アンワル氏の妻は、ワン・アジザ副首相)と娘(ペナン州の国会議員。参照「オバマ大統領の『幸せ』と『人生最大の後悔』」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41033)の「国会議員二世代一家」が誕生し、縁故主義の批判対象にもなるだろう。

 皮肉なことに、こうしたアンワル氏への批判は、国民のマハティール氏の支持をさらに顕示させることにつながる。

 マレーシアの首相禅譲が円滑に進むか。「内憂外患」のアンワル氏の憂鬱は計り知れない。

(取材・文 末永 恵)