ディアトロフ一行に何が起きたのか。著者は粘り強い調査によって、他者による攻撃説、雪崩説、強風説、兵器実験説、放射線関連の実験説など、いくつもの説を論理的に否定していく。そして驚くべき結論を見出すのだ。

 ここでその種明かしをするわけにはいかないが、少しだけヒントを挙げておくと、鍵になるのは「大気物理学」である。著者はきわめて説得力のある科学的な結論を見出している。もちろん素人の思いつきなどではなく、専門家のお墨付きだ。著者は最終的にNOAA(アメリカ海洋大気庁)の科学者らの力を借りて事件の真相に辿り着く。

 ディアトロフ一行は、これ以上ないほど最悪のタイミングで、最悪の場所にテントを張ってしまっていたのだ。

 ミステリー小説に「本格推理」と呼ばれるジャンルがある。たとえば、どこからも侵入不可能な密室に奇妙な死体が転がっている。その謎を名探偵がきわめて論理的に解き明かすといった展開がお馴染みだ。本書はこのような鮮やかな謎解きを目の当たりにしたかのような読後感をもたらしてくれるだろう。

 それにしても自然界にはまだまだ知らない現象があるのだと思い知らされた。気象科学に大気物理学、音響学に流体科学・・・、また読みたいジャンルが増えてしまった。これだから読書はやめられないのだ。

首藤 淳哉
1970年生まれ。大分県出身。ラジオ局で番組制作を担当。「本を読む」ことと「飲み食いする」ことをただひたすら繰り返すという単調な生活を送っている。妻子持ちだが、本の収納などをめぐり年間を通して家庭崩壊の危機に瀕している。太っているのに綱渡りの日々。好きなジャンルはノンフィクション、人文、サイエンス系。

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