放射性物質は除去されたが「風評」が残った

 東電は「汚染水」の中の放射性物質を除去したが、トリチウムだけが残ったまま、貯水タンクに水は貯まり続けた。原子力規制委員会の田中俊一前委員長も2014年に海洋放出の方針を示し、毒性がないことはマスコミも分かってきたので、汚染水は「トリチウム水」と呼ばれるようになった。

 東電の川村会長は2017年に「田中委員長と同じ意見だ」と海洋放出を示唆したが、これに福島県漁連が「裏切り行為だ」と反発し、田中氏も「東電は地元と向き合う姿勢がない」と強く批判し、問題は暗礁に乗り上げてしまった。

 このころから問題が「毒性」から「風評」にすりかわった。トリチウムを薄めれば毒性はなくなるが、風評は消えない。県漁連も、もっぱら風評を理由にして、海洋放出に反対するようになった。

 田中氏の後任の更田豊志原子力規制委員長も2018年1月、地元との話し合いで「意思決定をしなければならない時期に来ている」と述べたが、誰が決定するのかは明言しなかった。更田氏によると「原発内に貯水できるのはあと2~3年程度で、タンクの手当に2年以上かかる」という。2018年中に結論を出さないと、貯水タンクが足りなくなる。

 原発再稼動もトリチウム水も、科学的には答が出ている。法的には安全審査は原発の運転とは別の問題で、定期検査の終わった泊原発は運転してよい。今は燃料棒を抜いているので運転は不可能だが、大停電の再発を防ぐには再稼動が必要だ。

 こんな簡単な答が出せないのは「あらゆる手を尽くしたができなかった」と言わないと、地元が納得しないからだ。再稼動は「安全審査に合格した」という(法的には無意味な)お墨付きをもらわないとできない。トリチウム水も貯水タンクが一杯になって「これ以上は無理だ」と言わないと流せない。

 そういう日本的な問題解決のために事故から7年以上も問題を放置し、原発を止めたことによるコストは15兆円を超え、廃炉には8兆円がかかる。それは結局は、電力利用者と納税者の負担になるのだ。