田原 今のクレームはネットで来る。しかも編成とか管理部門、挙句の果てはスポンサーまで行くんだよね。

インターネット媒体は金儲けを考えすぎ

土屋 直接スポンサーに電話やメールしたり、そのやり取りをまたネット上に公開したりする人もいます。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)に司会として出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。近著に『AIで私の仕事はなくなりますか?』 (講談社+α新書) など。

田原 そうなるとスポンサーが手を引いて、番組がつぶれちゃう。クレームのあり方が全く変わった。テレビ局にとってはこれが怖いんですね。

 だから今のテレビの世界は、なるべくクレームの来ない番組作ろうとしている。土屋さんなんて、クレームが来る番組を作ってたのにね。

土屋 そうですね、わざと。(笑)

 だからスペシャル番組なんの時に、「今回はクレームがたくさん来そうだな」と感じた時は、50人くらいのクレーム処理班を用意したりしました。確信犯ですからね。

 例えば『電波少年』でユーラシア大陸をヒッチハイクした猿岩石がロンドンでゴールした時に、すぐに「はい、じゃあ今度は南北アメリカ大陸縦断ね。ここからプンタ・アレーナスに行って」って言ったときなんか、クレームの電話が1000本ぐらい来ましたね。でも、まぁ、それは来ますよね。視聴者からしたら「苦労して猿岩石がゴールしたのを見て感動しようとしてんのに、お前ら、何さらすんじゃ!」っていう気持ちになるでしょうから。

土屋敏男:日本テレビ放送網 日テレラボ シニアクリエイター、一般社団法人1964 TOKYO VR代表理事。『進め!電波少年』や『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』など多くの人気番組を手掛ける。昨年、萩本欽一を主演に初監督映画『We Love Television?』を公開した。

 でも、そこで学んだのは、テレビって視聴者の想像を超えるというか、ある種、裏切るから面白いということ。見てくれている人の想像の範囲に収まると、もう次は見てくれない、っていうことなんです。

 だから田原さんがおっしゃるように、コンプライアンスが重視される時代になりましたが、その中でも視聴者の期待を裏切ることをやっている人間は何人かはいる。だから希望はあると思うんです。

 だって考えてみたら、これまでだって、そんなに飛び抜けた人間ってほんの数人です。逆に言えば、何人かいればいいんですよ。その個人がこの番組作りの世界で生き延びていけばテレビの世界に突破口はあると思う。

 ただ逆に言うと、インターネットのほうがだらしがないないっていう思いもあるんです。インターネットのコンテンツが、だらしがないなと。もっと好きなようにコンテンツ開発をやればいいのに、って思うんですよ。

田原 もっと過激に、いろいろ試してみればいいのにね。

土屋 インターネットの人って、ビジネスっていうか、お金儲けを最優先に考え過ぎだと思うんですよ。

 田原さんにしても僕にしても、あまり金のことを厳格に考えなくてもやってこられた。それは、ある種幸福な時代に巡り合えたお陰でもありますが、それにしてもインターネットってお金儲けを考えすぎているじゃないかと思うんです。そのせいか、インターネットの世界って、ほかのものを躊躇なくパクるんですよね。

 でも、ものを作る上で、ためらいなくパクるようになったところからは新しいものは絶対に生まれません。