無知を自覚し知を生む方法

 さて、はるか昔の人物なのに、現代人がいまだに十分見習うことができていない哲学・思想家がいる。冒頭で述べた、ソクラテスとガリレオだ。この2人に共通していることが2つある。「無知の自覚」と「無知から知を生む方法」だ。まずは、後者の「方法」から振り返ってみよう。

メノン』という本には、数学の素養のないソクラテスが、これまた数学については一切無知の人間と、図形を前にして一緒に問答しているうち、図形の新しい定理を発見するというシーンが描かれている。

 ソクラテスは、無知な者同士が問答を重ねることで新しい知を発見する技術を「産婆術」と呼んだ。産婆が赤ん坊の生まれるのを助けるように、ソクラテスは、無知な者同士でも新しい「知」の誕生を助けることができることを自覚していた。ソクラテスの産婆術は、現代のコーチング技術で言うところの5W1Hとして、再発見されている。ソクラテスが死んで2000年経ってからの、再発見だ。

 ガリレオも、「無知から知を生む」方法を発見した人物だ。物事をよく観察し、何が起きているのかを推論し、こうしたらうまくいくのではないかと仮説を立て、その仮説を検証できる実験を行い、その結果を考察して、再び観察に戻る。観察、推論、仮説、検証、考察。この5段階のステップを踏めば、まだ誰も知らない現象でも、どんな法則が働いているのかを発見できることを示した。

 また、この科学の5段階法は、天才でなくても、手続きさえマスターできれば凡人でも実践可能だ。「研究者」や「開発者」という、一定の訓練は受けているが必ずしも天才ではない、しかし新しい「知」をどんどん生み出すことができる人材を大量に輩出できるようになったのは、ガリレオの提示した科学の5段階法があるからに他ならない。

 この5段階法は、現代のビジネスマンも、意識的に習得すべき技術だ。