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ロシア、戦勝記念日の軍事パレードで最新兵器を披露

ロシアの首都モスクワで行われた旧ソ連の対ナチス・ドイツ戦勝73年を記念する軍事パレードに登場した、最新鋭の極超音速ミサイル「キンジャル」を搭載したミグ31超音速迎撃機(2018年5月9日撮影)。(c)AFP PHOTO / Kirill KUDRYAVTSEV〔AFPBB News

(文:小泉悠)

 秋はロシア軍の演習シーズンである。

 ロシア軍の演習は12月1日から始まる冬季演習期間と、5月1日から始まる夏季訓練期間に分かれており、後者の半ばにあたる8月から9月頃に、軍管区単位の大演習(ロシア軍の分類に従えば戦略指揮参謀演習)が行われるというのが通例だ。ことに近年では演習の規模が巨大化する傾向があり、10万人以上の兵力が動員されることも珍しくない。

 この種の大演習は4つの軍管区(西部、南部、中央、東部)の持ち回りで実施されるので、それぞれの軍管区では4年に1回の頻度で大演習が巡ってくるということになる。演習には当該軍管区の部隊だけでなく、他の軍管区からも部隊が派遣されてくるのが通例であり、場合によっては同盟国軍が参加することもある(たとえば西部軍管区であればベラルーシ、中央軍管区であれば中央アジア諸国が参加する)。

仮想敵に日本が含まれている

 2018年度大演習の舞台として予定されているのは、東部軍管区だ。同軍管区は東シベリアから極東、さらには北極圏東部までを含む広大な軍事行政単位であり、前回の「ヴォストーク(東方)2014」演習では15万人以上の大兵力が動員された(ただし、そのすべてが演習に参加したのか、軍管区内の兵力をすべてカウントしているだけなのかは明らかでない)。今年の大演習はそれから4年を経て巡ってきたもので、「ヴォストーク2018」と名付けられている。演習の実施時期については今年8月から9月とされているが、具体的な開始及び終了時期についてはまだ公式発表が見られない。

 一連の「ヴォストーク」演習が日本にとって重要なのは、まずもって、その仮想敵に日本が含まれているという点にある。「ヴォストーク2014」の際にロシア国防省の機関紙『赤い星』が報じたところによると、同演習は仮想国家「北方連邦」と島を巡って領土問題を抱えた仮想国家「ハンコリヤ」が、軍事紛争に陥るという想定で実施された。さらにこの紛争がエスカレートしたことにより、NATO(北大西洋条約機構)の主導的大国である「ミズーリヤ」が介入し、太平洋におけるロシアの内海を奪取しようと試みることも想定されていたという。具体的な国名は伏せられているものの、北方領土を巡る日露紛争が対米戦争にまでエスカレートするというシナリオであることは明らかであろう。

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