サウジアラビアはなぜアラムコのIPOを中止したのか

活発化する反皇太子派の動き、国内で未曽有の混乱も?

2018.08.31(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53923
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 だが、サウジアラムコの会長であり、ムハンマド皇太子の腹心とされるファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は8月23日、「政府は今もサウジアラムコのIPOに取り組んでおり、いつが条件として最善であるかを検討している段階にある」と述べた。サウジアラムコのIPOに向けたさらなる措置(同社の石油・ガス採掘権をこれまでの無期限から40年に制限)も発表した。国王の決断を無視するかのような振る舞いはサウジアラビアではあり得ないが、ムハンマド皇太子にとって、改革に不可欠な資金源の確保(サウジアラムコのIPO)は譲れない一線である。改革を進めるにあたって国内で軋轢が生じることは承知の上だろう。

 ムハンマド皇太子に対しては、改革に特権を剥奪された王族や既得権を失った財閥などから不満がくすぶる。特に2017年11月に王室内の有力者や国内の大富豪らを横領などの疑いで一斉拘束したことは、大きな反感を買った。

 ロイターの一連の報道からは、反皇太子派の動きが垣間見える。つまり、既得権益層にとって何より貴重な資金源であるサウジアラムコの財務まで公開されたら「一巻の終わり」という恐怖から、元々保守的な考えを有する国王を取りこみ、IPOの中止を決定させた。だが、それに従わないムハンマド皇太子側の動きに業を煮やしてメディアにこの決定をリークしたということだろう。

 サウジアラビアでは各地で銃撃や衝突が発生している。8月16日、内務省は「治安部隊が首都リヤド近郊でISの戦闘員を制圧した」と伝えたという。

 若者たちは改革を支持しているとされるが、痛みばかりで改革の果実を享受できなければ反旗を翻すのは時間の問題である。「サウジアラムコのIPO中止」報道を契機にムハンマド皇太子の改革を頓挫させようとする宗教過激派や反皇太子勢力が巻き返しを図ろうとすれば、サウジアラビア国内で未曾有の混乱が生ずるかもしれない。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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