サウジアラビアはなぜアラムコのIPOを中止したのか

活発化する反皇太子派の動き、国内で未曽有の混乱も?

2018.08.31(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53923
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 サウジアラムコのIPOは次期国王と目されるムハンマド皇太子が掲げる経済改革「ビジョン2030」を支える重要な資金調達源である。上場に伴う株式売却で得ようとしていた1000億ドルはサウジアラビアの国家予算の約4割に相当する。この資金を元手に、政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)がIT(情報技術)や再生可能エネルギーなど新産業を育成する戦略だった。

 しかし、サウジアラムコのIPOについては、2兆ドルという企業価値の現実性について疑問が出ていた。さらに「IPOの実施によりかつてない厳しい監査が入る」との懸念からサウジアラムコ側が難色を示したことから、ムハンマド皇太子も2018年春の海外メディアのインタビューで「2018年末か2019年初めとなる」と延期を示唆していた。

 サウジアラムコのIPO中止によりPIFは想定していた資金が調達できなくなったため、外国銀行からの融資を受けることになりそうだ(8月23日付フィナンシャル・タイムズ)。巨額の財源を失ったサウジアラビアの行方を市場が注視し始めている。

 2014年以降に発生した財政赤字を国債の発行でしのいできたサウジアラビアは、石油依存の経済構造を変える戦略の一環として国内の株式市場の活性化に努めてきた。だが、トルコの問題が深刻化した8月中旬から資金の逆流現象が生じている(8月25日付日本経済新聞)。生活物資の大半を輸入に頼るサウジアラビアは自国通貨リヤルをドルにペッグしているが、2015~2016年にかけて投機マネーがドル・ペッグ制に攻撃を仕掛けた経緯がある。米国が金融引き締めに向かう中、投機マネーが財弱な国や企業を狙い撃ちをしている状況下ではトルコの不安がサウジアラビアに伝染しないという保証はない。

懸念されるサウジの未曾有の混乱

 ロイターはさらに8月27日、「サウジアラムコのIPOが中止された背景にはサルマン国王の反対があった」とする驚くべき記事を配信した。

 関係者によれば、6月半ばまでのラマダン(断食月)の期間中、「IPOによってサウジアラムコの詳細な財務情報がすべて公開される」ことを懸念する王族、銀行関係者、サウジアラムコの元トップなどが国王と会談し、サウジアラムコのIPOを中止を決定したという。「『ノー』と言えば絶対に決定が覆ることがない国王の決定」が、6月下旬に行政機関に書簡として送付されたと複数の関係者は証言している。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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