サウジアラビアはなぜアラムコのIPOを中止したのか

活発化する反皇太子派の動き、国内で未曽有の混乱も?

2018.08.31(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53923
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 余談となるが、7月末のインフレ率が年率8万パーセントを超えていたベネズエラで8月21日、急激なインフレを抑えるために通貨単位を10万分の1に切り下げるデノミネーション(デノミ)が実施された。ベネズエラ政府は、原油価格に連動する仮想通貨「ペトロ」とのペッグ制を導入することで、デノミ後の通貨の価値を安定させようとしている。その試みは、ドイツの「レンテンマルク」を参考にしていると考えられる。ドイツは第1次大戦後に、通貨単位を1兆分の1に切り下げるとともに、地代請求権を本位とする(土地を裏付けとする)レンテンマルクを発行することでハイパーインフレを鎮静化させた。だが、ベネズエラの「最低賃金を3000%超引き上げる」といった政策は通貨供給量をむしろ拡大させる可能性がある。レンテンマルクの成功のもう1つの要因が通貨供給量を大幅に制限したことに鑑みれば、マドゥーロ政権の企みは「画竜点睛を欠く」ことになるだろう。

 話を原油供給量に戻すと、主要産油国による共同閣僚監視委員会は8月27日、「7月の減産遵守率は109%に低下した」ことを明らかにした(5月の遵守率は147%)。協調減産の適用除外のリビアの原油生産量も日量60万バレル台から100万バレルを超えるにまで回復している。

 さらにイラクが原油輸出量を拡大する姿勢を鮮明にしていることなどから、「年末に向けて世界の原油供給量が増加する」との見方が出ている(8月29日付ロイター)。

 米国でも原油在庫が増加する可能性が高い。米国の原油生産量は、パーミアン地区の産油量の輸送力が不足し始めていることなどが影響して、このところ日量1100万バレルで頭打ちとなっているが、トランプ政権は8月20日、「戦略石油備蓄(SPR、6.6億バレルの原油を貯蔵)を10月1日から11月30日にかけて合計1100万バレル分を放出する」計画を発表した。放出の規模は日量ベースで約20万バレル、イランからの原油輸出量が100万バレル減少するとすれば、その2割が穴埋めできることになる。米国の原油需要は8月をピークに10月にかけて減少することが通例だが、原油在庫の増加圧力が高まる時期にSPRが放出されれば、原油価格の下落圧力が高まる可能性が高い。

中国経済の動向次第で50ドル割れも?

 続いて(2)「米中貿易摩擦の激化が原油需要にもたらす影響」はどうか。心配されるのが、中国の今後の原油需要である。

 8月23日、米中両国は互いに160億ドル相当の輸入品に対する追加関税を発動した。8月22~23日に開催された事務レベルの通商協議はなんらの進展もなく終了した。トランプ大統領が事前に「中国との貿易戦争は無期限であり、事務レベルの協議には何の成果も期待していない」と述べていたとおりであった。

 トランプ政権の側近は対中強硬派で固められており、9月にさらに2000億ドル相当の中国製品に関税を課す方針を発表済みである。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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