血管トリプルリスク解消のための、地域での取り組み

青森と長野の共通点は、減塩と野菜増加のひと工夫メニュー

2018.08.29(Wed) 山岸 裕一
筆者プロフィール&コラム概要

青森県は全国平均寿命のワースト、長野県はNo.1長寿県からの陥落。それぞれの地域が、名誉挽回をかけて奮闘している。「トリプルリスクを考える会」は、その長野県と青森市の地元栄養士会の協力の元、トリプルリスク解消メニューの開発を行った。開発では、各地域に長く続く独特の食習慣が、生活習慣病やトリプルリスクを招く要因になっているのでは、との仮説から始まった。詳細をお伝えする。

トリプルリスクを考える会とは?

血管のトリプルリスクイメージ図。血圧・血糖・血中脂質のいずれかが高いと、 1つだけでなく3つとも悪くなる可能性が(トリプルリスク啓発 キックオフイベントより)

塩分、糖分、脂肪分。30代も半ばを過ぎると、これらの言葉に敏感になってくるのではないだろうか。

いずれも必須栄養素だが、摂り過ぎによって高血圧、高血糖、高血中脂質の血管リスクを引き起こす原因にも。さらに、3つの血管リスクのうちどれか1つが悪化すると、ほかの2つも悪化する可能性のある「トリプルリスク」をはらんでいる。

例えばリスク因子が重なると、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞などのリスクが最大35.8倍*にも達する。つまりどれか1つのリスクだけではなく、塩分、糖分、脂肪分の3つ(トリプル)を同時にケアしていく必要があるのだ。* 2001年労働省作業関連疾患統合対策研究班

健康的な生活習慣づくりの啓発活動を行うために、2018年2月に発足したのが「トリプルリスクを考える会」である。

同年4月には、各自治体の協力で「トリプルリスク啓発3都市プロジェクト」を推進することになり、トリプルリスクを解消するメニューの開発を始めた。

今回は3都市のうち、食塩の購入量が日本一で寿命は全国ワースト(2015年時点)の青森県と、ご長寿No,1の奪還を目指す長野県、それぞれの事例を紹介する。

青森県では、減塩のために「だし活」などで工夫

男女とも寿命が全国最下位の青森県では、その要因とされているのが、がん・心疾患・脳血管疾患である。塩を多く使う漬物の文化があり、また、雪の時期が長いため外出不要で済ませたいからか、インスタント麺の消費量も全国1位。

食事に関して県はこれまでも、だしを使って塩分を抑える「だし活」施策を実施。また、青森県栄養士会では、減塩活動の取り組みとして地域の健康まつりなどで0.7%の減塩みそ汁の試飲会、親子減塩料理教室を開催するなど、意欲的だ。

今回は、青森県栄養士会の成田茂子氏が中心となり、減塩を意識し野菜の摂取量を増やしたメニューを開発。「主菜5品は野菜・魚・肉で青森県産食材を生かし、低カロリーで塩分を抑えたヘルシーなレシピに仕上げました」と成田氏は自信を見せる。

野菜は全般的にカリウムが含まれ、カリウムは余分な塩分を体外に出す働きがある。

あおもりトリプルリスクケア弁当:「牛肉のトリプル野菜巻き」と「カレー風味な鮭の南蛮漬け」をベースに、青森県民生活協同組合がアレンジ。

開発された「トリプルリスク解消レシピ」では「牛肉のトリプル野菜巻き」と「カレー風味な鮭の南蛮漬け」をベースに、青森県民生活協同組合がアレンジした「あおもりトリプルリスクケア弁当(500kcal未満/塩分1.5g/野菜125g/脂質10g)」を販売。県民生協全店やスーパーなどで9月末まで店頭に並ぶ。お昼時には売り切れるほどの大盛況ぶりだ。

主菜5品目に共通してこだわった点は「だしを活用すること」「揚げずに焼いて、脂肪分を抑えること」「油を使わず、フライパンシートを使うこと」などだそう。

塩分を抑えても美味しくなるように、お酢やカレー粉などの香辛料や香味野菜を活用して風味付けをし、「塩のかわりにだしを使って工夫した」と成田氏は言う。

「いわしやこんぶ、サバなど、青森にはだしに使える食材が豊富。だしの旨みでお料理は数段美味しくなり、塩分は控えめ。いいことばかりです」(成田氏)

ほかにも、豆腐を使ってボリューム感を出したヘルシーハンバーグ、豚しゃぶのタレにはお酢や生姜ねぎ、大葉などの香味野菜を加えて塩分をカット。

「生産量日本一の青森県産の長芋を使い、シャキシャキ感を。適度なカロリーで、トリプルリスクを防ぐ食事を摂ることができます」(成田氏)

減塩や豊富な野菜、地のものをベースの考え方としながら、彩りや美味しさにも工夫が凝らされている。

■青森市のトリプルリスク解消レシピ
https://triple-risk.jp/project/recipes/aomori.html

 

長野県も課題は血管リスク。
減塩を工夫したACEメニュー

長野県では、がんおよび心疾患率は全国でみても低い一方で、トリプルリスクから起きやすい脳血管疾患、特に脳梗塞が全国値よりも高いという課題がある。

長野県ではもともと健康長寿県の名誉挽回を目指し「信州ACE(エース)プロジェクト」に取り組んでいた。生活習慣病予防に効果があると言われるAction(体を動かす)、Check(健診を受ける)、Eat(健康に食べる)により、世界一(ACE)の健康長寿を目指しているのだ。

メニュー開発では、塩分・糖分・脂肪分を同時にケアする考え方に加え、信州ACEプロジェクトの基準に基づき、次の要件を満たすメニュー開発が進められた。

・主食・主菜・副菜が揃っている
・一食500~700kcal
・野菜140g以上
・食塩相当量4g未満

「様々な野菜が取れる野菜王国ですので、地元の新鮮な野菜をたくさん使うように心がけました」(長野県栄養士会)

現状、カルシウムと食物繊維の摂取量は少なめで、食塩は全国的にも多いとのこと。

それを考慮し、トリプルケアで工夫した点は、「食塩の摂取量を控えるために、カレー粉やわさびなどの香辛料を使い、だしをしっかり使うことで減塩。肉や魚に野菜をたっぷりプラスしました」(長野県栄養士会)

開発メニューは、長野県庁10階の食堂「ししとう」で8月まで「トリプルリスクに配慮したACEメニュー」として提供。連日60食が売り切れ、こちらも大盛況だ。

そのACEメニューで展開されている5献立の、工夫ポイントをここで紹介しよう。

1、生鮭のチーズ焼き
・野菜やチーズの旨味を生かして、調味料を減らした
・エノキの食感を楽しみ、トマトの甘味や酸味でアクセントを

2、ポークソテー カレー風味
・カレー風味にすることで薄味を感じさせないように
・歯ごたえのある生ワカメを入れ、満足感をアップ

3、鰆(さわら)の信州みそ菜種焼き アスパラの白和え添え

鰆の信州みそ菜種焼き アスパラガスの白和え添え:特産品の信州みそで味付けし、全国一の生産量を誇るアスパラガスを付け合せにした、長野らしいメニュー。

・信州みそは軽く焦がすことで香りをアップさせ、食欲増進
・菜の花のほのかな苦味が、味の奥行きをプラス

4、鶏肉の甘酢野菜あんかけ
・たっぷり野菜の甘酢あんで、ボリュームアップ
・だしやしいたけを使って、調味料をセーブ

5、牛肉のステーキ わさびソース
・わさびの鮮烈な風味で、少量でも味わいのあるソースに
・酢と梅干の酸味で、味にメリハリを

こちらも減塩し、野菜を盛り込むことをベースに、彩りや味の面でも楽しく美味しく味わえるように工夫がされている。

■長野県のトリプルリスク解消レシピ
https://triple-risk.jp/project/recipes/nagano.html


バランスよく、減塩し、野菜を摂る

どちらも、“減塩”と“野菜摂取”、“バランス”が共通のキーワードであるようだ。いずれも減塩の決め手にだしが活用されていた知恵は、ぜひ日常にも取り入れたいところ。これらの啓蒙活動でトリプルリスク解消に対する考え方の定着が進み、健康に過ごせる人が一人でも多く増えることを望む。
 

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フリーランスのWeb編集・ディレクター/インタビューライター/挿し絵まんが家。広告やWebディレクター、シナリオライター志望、編集者を経て現職。ビジネスや旅、食がテーマ。 


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