記事のコントロールが利かないことを恐れるあまり、政府関係者がメディアに情報を隠し、それがさらなる誤認記事や批判記事を誘発してメディア不信が一層深まる――。

 メディアとの健全なつき合い方を知らないがためにこの国の政府が陥っている悪循環の根は深い。

 その意味で、今回の協力は、ティラワSEZ管理委員会にとどまらず、ミャンマー政府とメディアが背負ってきた不幸な関係に終止符を打つ第一歩となり得る、画期的な挑戦だと言えよう。

リスクを前に芽生えた自覚

 5月のある週末、ティラワ港の開発を進めるミャンマー経済公社(ウーパイン)グループと警官が、開発中のティラワ港の土地を巡り、地元の住民と衝突した。

 盾を持った警官と住民が柵で囲われた予定地の前で小競り合いする様子がSNSにアップされると、またたく間に拡散され、公開1時間で再生回数は1万7000回を超えたという。

 衝突が起きたのはSEZの外だったものの、住民を鎮圧するためにゴム弾が使用されたという報道が流れたり、住民側が抗議の記者会見を開いたりするなど、関係者の間にも一時、緊迫した空気が流れた。

 週明けの月曜日、ティラワSEZ管理委員会で広報を担当するキン モモ エイさんや、生計回復支援プロジェクトのカン サットさんと各紙の論調を確認していた北角さんの表情は険しかった。

 「これからは、ティラワのレピュテーションに著しく影響を与えそうな事態が発生したら、モモさんたち広報担当者が率先して事実関係と情報を整理し、想定される影響と対応策と併せて数時間のうちに上層部に提出しなければなりません」

 危機感をにじませる北角さんの言葉に、モモさんとカンさんが真剣な面持ちでうなずく。