たばこの有害物質に関する実験が行われていると聞いて、ひんやりとした施設で厳しい顔で作業する研究者たちの姿を想像していたが、ここでは珈琲を片手に会話する声があちらこちらで響いている。

 第1回で紹介した佐藤さんの仕事ぶりも、熱意がこちらに伝わってくるかのようだった。彼の仕事への意欲は高く、語学習得などを通じて、未来のために努力する姿もはつらつとしていた。

 モチベーションも高い。それは、あるいは個人的な危機感から来るものかもしれないが、IQOSの開発現場の空気を肌で感じ、それが刺激になっているようだ。

佐藤さん(撮影:榊智朗)

 「こちらに来て、本部と間近に接してみると、フィリップモリスの変革にかける思いがどれほど本気かということが随所に伝わってくるんです」

 「たとえば、CEOが頻繁に語る“会社の透明性”という言葉も、本当に忠実に実践されていることに驚きます」

 「パンフレットに掲載する情報1つも、データをわかりやすくするために、少し表現を変えようとすると、そこは正確に伝えるべきだといって譲らないんですよね。そういう態度にも本気度を感じます」

 一方で、海外で仕事をしてみると、日本とのギャップに戸惑うことも多い。なるべく現地のルールや慣習に合わせることにしているというが、時には疑問に思うこともあるという。

 彼は現在、IQOSに関する科学的な説明をまとめた記事を世界各国のフィリップモリスの公式サイトに掲載するため、18か国の言語に翻訳をするプロジェクトを担当している。

 順次オープンの準備を進めていく中で、日本版の記事がいよいよ公開されるという前日、現地で契約しているホームページ運営管理業者のミスが発覚した。そのままではオープンできなくなってしまった。

 「ところがその業者はそのまま休暇に入ってしまったんです。日本の感覚だと考えられないですよね。自社のミスなら、休みを返上してでも挽回しようとするじゃないですか。ところがその会社には、休日に社員を働かせることはできないと言われました」

 「たまたまそれが日本版だったこともあり、自分の知っているPMJのスタッフが公開日に間に合うように頑張ってくれていたのを知っていましたから、その時ばかりは抗議しました」

 現地のルールに合わせる努力はするものの、日本人をはじめアジアの価値観を理解してもらう努力もしていきたいという。