あらためてキューブの施設内を見渡してみると、各研究室の壁にはそれぞれ大きなガラスの窓が設置されていて、外から内部の様子がわかる。

 4階の渡り廊下から見下ろすと、白衣の女性が実験器具を扱っている姿もうかがえるし、別の部屋では自動機械が休む間もなく動いている情景も見られる。どこで何が行われているのか、一目瞭然だ。

 また施設内の随所に設置された公園のベンチのようなオープンスペースには、どこからともなく人が来て、そこにまた数人の人が集まり、10分ほど議論をしたかと思うと、それぞれのラボに消えていく・・・といった情景が見られる。

 この施設のレイアウトが、セクションを超えた研究者やエンジニアどうしの、オープンなコミュニケーションを促す効果を生んでいることは間違いない。

 それもIQOSの研究開発には幅広い分野の専門家どうしのコラボレーションが欠かせないことを会社が理解していたからだ。

イノベーションを生む研究者の働く環境とは

 では1人の科学者として、ヌーシャテル湖が見渡せる素晴らしい環境で働けることは、研究活動を行う上で重要なことなのだろうか――遺伝子分析を行うニコラス・シエラ博士に尋ねたのと同じ質問を、ベイカー博士にも投げかけてみた。

 「たしかにこの場所の環境は素晴らしいと思います。でも、科学者にとってもっとも重要なことは、自分がどのような研究に携われるか、ということです。そしてその研究の成果がどのようなインパクトをもたらすかということです」

 「キューブで働く人たちは皆、自分たちの研究によって生み出されるものが、世界の公衆衛生に大きく貢献する可能性を持っていることを知っています」

 「それによって多くの命を救うことができ、フィリップモリスだけでなく業界全体に変革をもたらすことができると信じています。それはとてもエキサイティングなことです」

 研究活動の内容と、その成果のインパクトの大きさによって、科学者たちもまたパッションを胸に抱いているようだ。