フィリップモリスが喫煙を変革するために開発したIQOSによって、PMJは自社変革を迫られる形になった。

 フィリップモリスではそれを「トランスフォーメーション」と呼ぶ。トランスフォーメーションとは「変容」あるいは「変態」を意味する。

 「私たちは、IQOSを主力商品に切り替えていく中で、まったく新しい事業に合わせた組織、職種、役職を設け、同時に社員には新しい事業ビジョンにふさわしいマインドセットを持ってもらうといった、内部環境の変容に取り組んできました」

 「でもそれは、政府が働き方改革を推し進めているのに合わせたわけではありません。その前に、私たち自身が変革の必要に迫られたということです」

 PMJでは、フレックスタイム制や週1回の自宅勤務などの制度、オフィスでのフリーアドレス制などを採用しているが、それらも「あくまで会社がトランスフォームしていく上で必要な社員の働き方を見直した結果、こうなりました」と井上副社長は強調する。

外資系企業には2つの異なるタイプがある

 日本で働き方改革というと、外資系企業の制度を採り入れようとする日本企業も多い。だが、井上副社長は外資系企業を一括りにするのは危険だという。

 「外資系といっても、実際には大きく2つに分かれています。そしてその2つは、社内の体制や仕事のしかた、体質にいたるまで、まったく違っています」

 外資系企業という場合、1つは単に外国の資本が入っているという意味での外資系企業(Foreign company)がある。

 たとえばアップルやグーグル、フェイスブックなどのIT企業は、世界各地に拠点があるが、すべての場所にシリコンバレー流のノウハウや価値観を浸透させる形で事業を拡大展開することを特徴とする。

 もう1つは、さまざまな国籍の人が互いに同じ立場で議論しながら企業を運営する多国籍企業(Multinational company)である。こちらは本部が大枠の目標や指針を示すが、具体的な事業の進め方は各国、各地域に任される。

 「フィリップモリスはまさに多国籍企業です。本部のCEO(最高経営責任者)はギリシア人、COO(最高執行責任者)はポーランド人、CFO(最高財務責任者)は米国人と、トップマネジメントが多国籍で、多様性に富んでいます」

 米国シリコンバレー・スタイルの企業と多国籍企業では事業の指針となる哲学がまったく異なるようだ。