ニコラス・シエラ博士

 「ここヌーシャテルは、私が生まれ育ったアルプスの町に似ていて、私個人はとても住みやすいです」

 「交通渋滞もなく、ローザンヌやジュネーブのような都会に行かなくても大抵のものが揃うし、それでいて近くに湖や山があって冬は車で15分も行けばスキーもできる」

 「こうした環境は家族にとっても住みよい場所だと思います」

 この環境には満足しているようだが、恵まれた自然環境は、研究活動においても重要な意味を持つのだろうか。

 「確かに住む場所や職場のロケーションは働くうえで大事なことだと思います」

 「しかし研究者にとって一番大事なことは、自分のやりたい研究ができるかどうか、ということに尽きます。スイスにおける労働環境がいいと思うのは、研究者の自主的な取り組みやアイデアを会社が認めてくれて、それを後押ししてくれるところです」

 ニコラス博士はかつて東京大学に留学し、その後、日本の研究機関で働いた経験も持つうえに、日本人女性と結婚しているため、日本の事情にも詳しい。そんな彼から見ても、日本のビジネスマンの長時間労働には、疑問を感じているという。

 「研究者やエンジニアに限ったことではないと思いますが、家と職場の往復だけでは仕事の効率は下がってしまいます。やはり家族や友人と過ごすリラックスした時間があってこそ、仕事の効率は高まります」

 長時間働くことはかえって仕事の効率を下げる、という考え方はニコラス博士に限らず、スイスでは徹底されているようだ。

 「私は東京の学術的な機関で働いたことはありますが企業で働いた経験はなく、比較することはできません」

 「しかし、限られた経験から言わせていただくなら、政府は制限時間を超えて人を働かせる会社を厳しく取り締まるべきだと思います。そのほうが働く人もワークライフバランスをとりやすくなると思います」

 国が罰則を設けてでも長時間労働をなくすべきだと、ニコラス博士は主張する。