想像以上の働き者、胃の正しいメンテナンス方法

考究:食と身体(4)炉の神ヴェスタ篇

2018.07.27(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

胃の上皮は粘液で護られている

 さて、一旦ため込むといっても、消化酵素を含んだ強酸性の胃液が分泌されるような過酷な環境に、胃はどうやって対処しているのか。

 最も重要なのは強固な粘膜である。「胃底腺(いていせん)」と呼ばれるところから粘液が分泌され、胃の上皮細胞を保護する強固な粘膜を形成する。あらかじめフッ素コーティングされている鍋のようなものだ。そして万が一、粘膜の隙間をすり抜けて胃液が侵入してきた場合でも、上皮細胞から放出されている重炭酸イオン(炭酸水素イオン)で中和される。

胃とその周囲の構造。

 ただし、胃液と常に対峙している上皮細胞は、恒常的に粘液を分泌させる必要があり、「若く活発な状態」であり続けなければならない。というわけで、胃液により近い上皮細胞は盛んに分裂して、3~5日で新しい細胞にすべて入れ替わっている。すなわち、細胞レベルで見ると、胃の内部表面は日々リニューアルしている状態ということになる。

「清掃ができないコンビニ」になっていないか

 鍋は使い終わったらよく洗わなければならないのと同様に、常に変化し続ける胃もまた定期的にクリーニングする必要がある。次々と剥がれ落ちつづける上皮細胞の残骸や胃壁にこびりついた消化物の残りは、空腹時の激しい蠕動運動によってこそげ取られる。消化時には閉じていた幽門も大きく開き、胃の内容物が押し出される。誤って飲み込んだボタンなども、このときに胃から脱出する。

 こうした胃のクリーニングは、空腹時(とくに就寝時)に90分程度の周期で行われ、胃へ新たに何か入ってきて再び胃酸の分泌が激しくなるまで繰り返される。

 つまり、空腹になるというのは、胃のメンテナンスにとって極めて重要な意味をもつのだ。逆にいえば、少量でも何かをダラダラと食べ続けるのは、胃にとっては「客足が途絶えずに店内清掃ができないコンビニ」のような状態であり、非常に不健全といえよう。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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