拙著『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法』や『自分の頭で考えて動く部下の育て方』は、そうした考え方から子育て法や部下の指導法をまとめたものだ。集中した学習、集中した仕事をしてもらうには、5つのバランスをとることが大切。

 気晴らし(交友)は十分できているか。運動して体を健康に保てているか。家事をして、家庭に居場所を確保できているか(会社の場合は会社での居場所、学校なら学校での居場所)。休息をきちんととって、疲れを癒せているか。それらのことがきっちりできていて、最後に学習(仕事)の工夫へと入れる。

 しかも、「1日に3時間集中して学習するのは難しい」という弁護士の話にもあるように、人間が学習や仕事に集中して取り組める時間は、そう長くはない、という弁えも必要だ。その限界を承知の上で、どれだけパフォーマンスを引き出せるかが、親や教師、上司の腕の見せ所、ということになる。

 昨今の日本社会は、生活のすべてを仕事や勉強につぎ込ませようという思考が垣間見られる。それは無茶だ。人間は、楽しみ、体を動かし、誰かの役に立っているという実感と居場所感をもち、時には休息し、その上で適度に働いて責務を消化することによって、笑顔を保てる生き物なのだ。

 どれかひとつでもバランスを失うと、笑顔を失い、すべての項目でパフォーマンスが悪くなる。親や教師、上司は、無理をさせないことに目配りすることが重要だ。優れた野球監督は、優秀な投手を連続して登板させることはしない。必ず、十分な休息時間を与える。それは、いざ登板すればしっかりしたパフォーマンスを発揮してもらいたいが故だろう。

 24時間、勉強や仕事にパフォーマンスを100%求めるのは、人間という生き物の生理を無視しすぎている。その生理、心理に従えば、パフォーマンスは向上させうる。どうか、そのことを忘れないでいただきたい。