日本の缶詰第一号、イワシは謎に満ちた魚だった

「弱」をつけられた魚の値打ち(前篇)

2018.07.13(Fri) 漆原 次郎
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鰯(イワシ)。 ニシン目のうちイワシ類の海魚の総称。マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなどがある。写真はマイワシ。

 魚にも旬の季節はある。秋のサンマ、冬のフグなどはよく知られるところだ。

 身近で、缶詰でも年中見かけるので実感がわかないが、「鰯(イワシ)」にも旬があるという。特に、主流のマイワシやカタクチイワシは、5月から10月ごろにかけて、つまりこの時期が旬だという。

「魚」に「弱」という字。それに「鰯の頭も信心から」という諺。日本人は、この魚のことを、価値の低い魚と見てきたことが想像できる。だが、イワシへのそうした価値づけは、果たしてふさわしいものだろうか。

 今回は、イワシをテーマにその歴史と現状を追っていきたい。前篇では、日本人がイワシをどう評価し、利用してきたか、その歩みをたどってみる。価値の低い魚とされながらも、実際は人びとにさまざまな恵を与えてきたことが分かる。後篇では、イワシ漁で長らくの課題となっている「豊漁と不漁の繰り返し」などの仕組み解明につながる、「耳石」を使った現代技術を紹介したい。

水から出るとすぐ死ぬ「弱し魚」

 日本人は古くからイワシを食べてきたようだ。縄文時代の貝塚からは、マイワシの骨が複数、見つかっている。

 奈良時代に造られた平城宮からは「鰯」の文字が書かれた木管が見つかっている。「人給所謂 鰯肆拾隻 海藻湯料・・・」とあり、人びとに食料を支給する施設が、海藻の湯の材料として、イワシ40匹を請求していたことがうかがえる。

 平安時代の律令の施行細則『延喜式』にも「鰯魚汁一斗五升」との記録が見られる。「鰯魚汁」はイワシを原料とした塩辛汁だとする考察もある。各種の汁ものの材料として、イワシがおおいに使われていたのかもしれない。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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