驚かせたいのは大人も同じ

 以上は子どもの心の動きだが、これは大人になってもずっと存在し続ける心象のように思う。上司が「まさか」という顔をしたら、嬉しくならないだろうか。得意な気分にならないだろうか。褒められるより何より、驚かせることができると「してやったり!」という気分になるものだ。

 だから私は、期待しないことにしている。期待すると、期待の水準に達しない事に不満を持ち、その不満が部下に伝わり、やる気をなくしてしまう。期待しなければ、ほんの少し意外なことをしてくれただけで「え? まさか?」と素直に驚ける。驚くと、勝手に成長してくれる。しかも、こっちを驚かせよう、喜ばせようとするわけだから、こちらの考えを読み取り、その先を行こうとするので、努力の方向に間違いがない。

 世の親たち、特にお母さんたちが、赤ちゃんに対して期待せず、むしろ祈るような気持ちで見守り、何かひとつできることが増えると驚き、喜ぶ。あの接し方は、理想の指導スタイルなのではないかと私は考えている。変に、こちらの期待していることは分かっているだろ、だったらもうちょっと頑張ってくれよ、と、相手の忖度の能力と実行力に期待を持つと、いらだち、怒鳴りたくなり、そしてやる気を奪ってしまう。

 赤ちゃんに対する母親の接し方、つまり、期待せず、祈るような気持ちで見守り、何かひとつできたことがあったら驚き、喜ぶ。その姿は、いくつになっても(おそらくは介護の場面になっても)、人間のやる気を促すパワーなのではないだろうか。

 褒めるよりは驚こう。それだけで、私も相手もハッピーになれるのだから。