そのためには、弟子や部下が主体的に学ぶように仕向けるしかないことに気がつくだろう。そして、主体的に学ぶように仕向けるにはどうしたらよいのか、それを考える必要があることに気がつくだろう。

 拙著『自分の頭で考えて動く部下の育て方』に寄せられた感想の中に、「この内容を本にして伝えること自体に一番違和感を覚えていたのは著者自身ではないか。読者はこれを読んだ後、『考えるな、感じろ』を実践すべきではないか」というものがあった。卓見だと思う。

 私は拙著の中で、人事に関するさまざまな解決手段を紹介した。しかし、それらを金科玉条に思ってもらっては困る。目の前の現象、目の前の人間から課題を抽出し、解決できそうな仮説を立て、実践しては修正をかける。観察・抽出・仮説・実践・修正。それを繰り返し、身に付けていただければ、私が何を言ったのかなんて忘れていただいて結構だ。

 イチローのバットを作った職人が弟子に伝えるのは、イチローのバットの作り方ではないはず。野球選手の言葉に耳を傾け、要望を聞き、材料を比較し、これなら要望通り作れるかもと仮説を立て、実際に作ってみては試してもらい、ズレを修正する、という作業の繰り返しのはずだ。

 これはビジネスでも同じはず。顧客の状況、自社の業務を観察し、課題を抽出し、顧客の要望に応えられそうなシーズを仮説し、試してみては顧客の要望を改めて聞き、修正をかけていく。その繰り返しの中でよい商品は生まれるはず。

 経験の多寡にとらわれず、観察・抽出・仮説・実践・修正の5つの力を鍛えていただきたい。そうすれば、現象を丁寧に見るコツがつかめるようになり、そのコツを言語化し、他の人に伝える能力も自然と磨かれていくだろう。2冊の拙著は、両方ともそれをお伝えするために書いたといってよい。