愛し合うものたちが経験する、他愛もなく一分一秒が愛おしいような時間は今も昔もかわらない。二人が最も幸せだった12日間のある日、アントニオが夕食にオムレツを作ると言い出す。なんと卵24個を使った巨大なオムレツだ。卵24個はばかげた数に思えるが(一般的には2~6個程度)、アントニオの祖父が昔24個の卵を完食したことに、あこがれがあったのだろう。協力して作った丸いオムレツに満足げな二人は、ワインをかたむけ嬉々として食べ始める。しかし食べきれる大きさではない。「ひと月は卵と絶交よ」「いや1年だ」とげんなりした様子の2人がほほえましい。

 物語の終盤、つらい過去を乗り越え、新しい人生を歩みだそうとするジョバンナの顔には、もう過去を振り返らない、ふっきれたような表情がみてとれる。それでも、あのひまわりの花のようなオムレツの味を、かけがえのないパートナーだった彼との時間とともに、彼女はときどき思い出すのかもしれない。

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