本作では食事をするシーンが多く登場するが、なかでも宿ハマダのオープンキッチンで、皆で食べる朝ごはんが印象的だ。ご飯、みそ汁、焼じゃけなど、メニュー自体はありきたりのものだ。最後に「この野菜ね、全部今朝のとれたてです」と宿の主人が、ゆで野菜の温サラダをテーブルの上に置く。タエコは朝ごはんのおいしさに、ほんの一瞬「おっ」という顔をするが、それを口に出すほどの親しみは生まれていない。

 タエコは大事に持って来たキャリーケースを持って宿を出てしまうのだが、結局それを島の真ん中に置きっぱなしにして宿に戻る。しがらみを象徴する荷物を手放すことで、やっと自由になる入り口に立てたのだ。その夜ぐっすり眠り、翌朝起きたときから、周囲の人々や宿の食事がすなおに心にしみていく。

 その後、伊勢エビにかぶりついたり、海岸でかき氷(氷金時)を食べたりするうちに、タエコは少しずつ自分の思いをリセットし、周囲の人たちと打ち解けていく。それをなにげない食べものが支えている。

 宿ハマダの朝ごはんの中でも盛り付けシーンが印象的な、ゆで野菜の温サラダの作り方はこちら

チャルキカン(チリ33人 希望の軌跡)

 2010年にチリで発生した「コピアポ鉱山落盤事故」は世界を震撼させる鉱山事故として記憶に新しい。さらに世界を驚嘆させたのは、69日後に、鉱山最下層に閉じ込められていた33人全員が救出されたことだろう。『チリ33人 希望の軌跡』は、この実話をモチーフにチリで製作された映画である。

 坑内は30度を超え、1人あたり小さじ2杯のマグロ缶と少しのミルクとビスケット1枚、このわずかな食糧を2日に1回口にするのみだ。自分たちが生存していることを知らせる術もなく、助けが来るのかもわからない圧倒的な絶望感と闘いながら男たちは生き抜こうとする。