失敗を許容していないイノベーションを起こすのは無理な話です。文字通り「理(ことわり)が無い」のです。

 さらには、「イノベーションを起こせ! でも、失敗はするな!」という態度は圧力となり、現場を萎縮させます。新しい分岐を生む、チャレンジ自体を損なってしまう可能性があります。イノベーションを促す声かけ自体が進化を止めてしまう皮肉な事態です。

 私たちに必要とされているのは、まるで進化を一直線に起こそうとするようにイノベーションを単発で起こそうとすることではありません。それは理(ことわり)のない「無理」なことなのです。

 失敗も含んだたくさんの分岐の中から結果的にイノベーションが生まれてくること、つまり、広がりある「イノベーションの生態系」をつくるということにこそ意識を向けるべきではないでしょうか。

 ダーウィンは『種の起源』の中でこのような言葉を残しています。

「<生命の大樹>も世代を重ね、枯れ落ちた枝で地殻をみたし、分岐をつづけるうつくしい枝々で地表をおおっているのであると、私は信じるのである。」

 彼は、当時から、生き残り栄える種も、散って土として次の命を育む種も、それら全体が美しいという見方をしていたのでしょう。自然全体を愛していたからこそ、進化の真の意味を見出したのです。

 私たちは、ようやく、ダーウィンからのラブレターを受け取れる準備が整ったのかもしれません。