不動産高騰の影響は市民生活にも

 富裕層が豪邸を中心に投資を繰り返している分にはよかった。庶民には無縁の世界の話だからだ。だが、近年は庶民向けの一般的な住宅までもが投資の対象になっているという。

 さらに問題なのは、つり上がるのが住宅価格だけではないことだ。不動産の高騰の影響で、香港名物のワンタン麺まで値段が上がった。庶民にとっては大打撃である。香港生活の長い日本人も「以前は街中の食堂で10香港ドルもあればワンタン麺が食べられたが、今なら40香港ドルはする」という。それでも美味しいワンタン麺にありつけるならまだいいほうで、筆者は店にすらたどりつけなかったのである。

 朝8時、筆者はひもじい思いで旺角の街をさまようこととなった。なにしろ店そのものが見当たらない。サンドイッチとコーヒーの朝食セットを出す店があったが、値段は60~70香港ドルもし、そんな店はたいていまずい。それもこれも、高騰する不動産価格が元凶なのだろう。

 結局、筆者が選んだのは、古ぼけたビルの2階に店を構えた日本の牛丼チェーン「吉野家」だった。朝から牛丼をかきこむことにはさすがに抵抗があったものの、思い切って足を踏み入れると、広々した店内はすでに満席に近い状態だった。

 吉野家は「うまい、やすい、はやい」のコンセプトで世界中に店舗を展開している。不動産が青天井に高騰する香港でも、わずか23香港ドル(約325円、4月末時点)という“あり得ない”価格で朝食を庶民にふるまっていた。

 果たしてこれで儲かるのかと心配したが、「時間帯によって価格設定を変えており、香港での業績は好調」(吉野家ホールディングス)なのだという。香港ではマスターフランチャイジーが吉野家の商標を利用し店舗展開を行っているが、「日本ブランド」には変わりはない。この逆境下での日本ブランドの健闘を知り、筆者は心強さと嬉しさで思わずこぶしを握り締めてしまった。