20世紀の「トゥキュディデスの罠」の状態と今日を比較した図2では、米国の2008年時点での年間軍事予算は他のあらゆる一国家単独の軍事予算の十数倍規模に達していたことを示している。中国との比較においても例外ではない。今日、中国の軍事予算は米国の5分の1を超えたかというような状況だ。

 より最近のデータ(2015年の図3)では、アメリカの軍事支出は依然として2位から8位までの軍事大国の軍事支出合計を上回っている(そして実に世界の軍事支出の40%以上がアメリカ一国に集中している)。これはドイツの軍事費がイギリスに迫っていた第1次世界大戦の直前とはまるで異なる状況だ。1930年代の状況とも異なる。

図3. 世界の軍事予算2015年

 当時、日本の軍事費は米国を上回っていた(図4)。このような状況下では、ある程度の理性を有した国家であれば、戦争に勝利できる(あるいは有利な交渉条件を勝ち取れる)と考えてもおかしくはない。

図4. 1920年~1949年日米軍事予算 各年の軍事費と累計支出額(投資額)
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 最後に、戦前の独英あるいは日米と現代の状況とを比較する際、決定的に異なる要素がある。当時は核兵器が存在しなかったのだ。核兵器が存在し、「相互確証破壊」(mutually assured destruction:通称MAD)が起きる潜在的可能性のある状況下では、国家間の全面戦争が起きるとは考えづらい(あくまで「理性的な」指導者を想定した場合だが)。