根回しの教科書には、「対立すると相手はデメリットに目を向けてくるが、巻き込んで一緒に検討すると当事者意識が芽生え、メリットに目を向けてくれる。だから相手を巻き込んで一緒に検討せよ」と書いてあります。人間心理としては正解でしょう。しかし、手間、暇、時間をかけ、神経をすり減らし、誰もが反対しない総花な内容に仕上げることが、会社にとって本当に意味あることなのでしょうか? 根回しの目的は、相手を抑え込んだり玉虫色の提案を作ったりすることではなく、会社が儲かると同時に、相手も勝たせて味方にすることが本質なのです。

 そんな夢みたいなことができるのでしょうか?

 答は簡単です。敵の矛先を変えればいいのです。互いを敵にするのではなく、「共通の敵は何か?」を探り、見つけるのです。人は異分子や共通の敵が入ってくると真っ先に追い出すことを考え、実行します。人は共通の敵が見つかればわだかまりがなくなり協力することができるのです。

 共通の仮想敵を描く方法は簡単です。主語を「対立先」から「本質的な相手」に変えるのです。主語が対立先だと「つぶす」「妥協する」ことが目的になってしまいますが、主語が「本質的な相手や目的」なら、「勝たせる」「喜ばせる」「助ける」ことが共通の目的に切り替わります。

 例えば、営業部門が「モノが悪い」と言い、製造部門が「営業が売れない」と言い、営業と製造が対立するという構図はよく見られます。その際、どちらが悪いかを客観的に分析しても不毛なだけです。盗人にも五分の理ではないですが、相手にも言い分があるからです。そういう場合は、視点をお客様のニーズに当てて「お客様が喜ぶものは何だろう?」と営業と製造が一緒に考えれば、打開策は見えてきます。「そもそも今の議論の最終目的はお客様に喜んでもらうためだよね?」と「そもそも論」を持ちかけてみるのがポイントです。

相手の「欲」に直球を投げる

 相手に気持ちよく動いてもらうにはどうすればいいか? そのためには、相手の「欲」をダイレクトに刺激する一言を最初に言うことです。