しかし、中国は、ナジブ前首相が公金流用の隠れ蓑として設立させた政府系投資会社「1MDB」の約420億リンギ(約1兆1700億円)の巨額負債の一部の60億リンギ以上を救済するという名目で、借金を肩代わりする代わり、外資規制のある発電所を100%買い受け、1MDBの経営破たんを回避させた。

 中国は、違法性のあるナジブ前首相との不透明な事業の受注契約に手を染めている疑惑が持たれている。

 マハティール首相は、「これ以上、マレーシアを中国に“身売り”できない」と外資の中でも、中国主導の大型投資案件について、早急に見直す姿勢を前面に打ち出していた。

 元来、この路線の建設の先駆けとなったのは、大英帝国で、第2次大戦中には日本も国策で戦略下にあった路線だった。

 そんなHSRに中国が異様なほどの執着を見せるのは、理由は経済だけではない。

 同路線は、中国からラオス、タイを通過し、シンガポール海峡へ抜ける習国家主席が進める一帯一路の安全保障戦略における「生命線」。

 資源や物資を中東地域から運びこむ要衝のマラッカ海峡を、シンガポールに環太平洋の海軍の本拠地を置く米国などに封鎖される事態を回避するため(マラッカ・ジレンマ)、その迂回路として抜けるルートになるため、“債務トラップ”による融資で、この地域への政治的覇権を拡大することが戦略上にある。

 さらに、習国家主席肝いりの一帯一路の目玉プロジェクトであるECRLも、マハティール首相は、中止も含め見直しを中国政府と交渉し始めた。

 同計画は、総工費550億リンギ(約1兆5000億円)をかけ、タイ国境近くから、マレー半島を東西横断する形で、クアラルンプール近郊と東西の重要港を結ぶ総距離約680キロの一大プロジェクト。

 「中国主導の東海岸鉄道計画(ECRL)は非常にリスクが高く、マレーシアにとって有益ではない」「同計画を進めれば、新たな1MDB(ナジブ前首相設立の巨額負債を抱えた政府系投資会社)を生む結果になるだろう」――。

 筆者の取材で、マレーシアを代表する経済学者、ジョモ・スンダラム教授が、一帯一路の最重要プロジェクトの一つ、ECRLについて、そう評価を下していることが明らかになった。