一方、外交戦略上は、HSRの受注に中国と激しく争った日本に首相就任後の外遊先として初めて6月中旬に訪問するにあたり、中国優勢だった受注合戦に終止符を打つことで日本へ秋波を送り、マレーシアの在来線などの刷新強化への日本の技術移転や直接投資や円借款による投資案件の交渉を有利に進めたい思惑がある。

 また、31日には日本の新幹線技術導入を決定したインドのモディ首相が政権交代後のマレーシアを初訪問し、マハティール首相(父親はインドからの移民)と初の首脳会談を開く。マレーシアはインドにとって、東南アジア最大の貿易相手国だ。

 脱中国依存を政権誕生直後から鮮明にするマハティール首相と、中国とアジアでの覇権争いで領土問題などでも緊迫した状況が続くインドのモディ首相が、中国の一帯一路構想に反旗を翻すアジアのツートップとして、“アンチ・チャイナ”で反中国姿勢を国際社会にアピールする狙いがあるとみられる。

 もともとマハティール首相は、マレーシアーシンガポール間の高速鉄道計画について、筆者との単独インタビューで(マハティールの野党勝利 61年ぶりの政権交代、http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065)、「距離が短く、所要時間も1時間半。従来の鉄道の刷新などが先決。現在、高速鉄道が必要とは思わない。マレーシアにメリットがあるかも疑問」と計画中止を示唆していた。

 マレーシア政府関係者によると、政権誕生後、マハティール首相は即座に高速鉄道事業を所管していた陸上公共交通委員会(SPAD)の解体を決め、中止への準備を着々と進めてきた。

 HSRは、マレーシアの首都クアラルンプールとシンガポール間、約350キロを(シンガポール側は15キロ)時速300キロで走る計画(所要時間1時間半)で、ナジブ前政権下で決定、進められてきた。

 総工費は約200億シンガポールドル(約1兆6400億円)を上回ると予想され、「世界で最もリッチな鉄道」と称され、2026年の開業を目指し、受注には日本や中国、さらにはドイツ、フランス、韓国が名乗りを挙げていた。

 中でもここ数年、日本と中国は、首脳による外交や担当閣僚の現地でのプレゼンや展示会を頻繁に開催し、激しい受注合戦を展開してきた。

 特に、インフラ輸出をアベノミクスの成長軸に置く安倍政権下では、受注合戦の前線に立つ官僚や企業関係者が「中国打倒の夢を果たす」ことを念頭に、奔走してきた。