食欲はどこからやってくるのだろうか。アイコンは知恵の神ミネルヴァと伝令の神マーキュリー。

 私たちは「食」の行為を当然のようにしている。では、私たちの身体にとって「食」とは何を意味するのだろうか。本連載では、各回で「オリンポス12神」を登場させながら、食と身体の関わり合いを深く考え、探っていく。

(1)主神ジュピター篇「なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問」

「智に働けば角が立つ、情に棹(さお)させば流される、意地を張るのも窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい」

 夏目漱石『草枕』の有名なこの一節、実は、私たちが日頃感じている「食と身体」についての不条理さも、よく表しているように思う。

 元の作品の意図からは外れるものの、智に傾き「何々は体に悪いから絶対に食べない!」では、社会生活に角が立つこともあろう。反対に「付き合いだから」と言って、成り行きでついあれこれ余計に食べ過ぎてしまったりする。そして、「健康のために何々は我慢」という生活も窮屈である。食と身体にもまた、智・情・意の要素が複雑に絡み合っているのだ。

 とはいえ、人の世とは違って、私たちの身体には智・情・意をそれぞれ一定限度で調整する「食欲」という優れた機能が備わっている。食欲が低下すれば食べたくなくなり、食欲が出てくれば何か食べたくなる。そして、食欲は永遠に続くわけでもないし、消失したままということもない。

 では、その食欲はどうやって生じたり消えたりしているのだろうか?

食欲の発生は、脳への情報伝達がカギ

 日頃の実感からすると、食欲は胃袋の満たされ具合によって調節されているように思える。すなわち、胃の内容物が減少すると食欲が刺激され、満腹になれば食欲は減少するという具合だ。