米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は2015年、傘下の食品大手HJハインツを通じ、同じく食品大手のクラフト・フーズ・グループを買収しているが、この買収に際してバフェット氏は株価に高いプレミアムを付け、さらに高額の特別配当を準備するなど、既存株主の利益が損なわれないよう細心の注意を払った。

 米国を代表する著名投資家による米国内での買収スキームですら、ステークホルダーにはかなりの配慮を行っている。ましてや今回の案件は、外国企業による米国企業の買収案件であり、関係者全員を納得させるのは容易なことではない。その意味で、富士フイルムのスキームは少々乱暴で稚拙だったといわざるを得ないだろう。

 もっとも、富士フイルムによる買収が失敗した場合でも、同社の株主にとってはむしろ朗報となるかもしれない。

 米国は時代の変化が早く、FAXはオフィスからほぼ完全消滅しており、複合機はもはや社内印刷用の用途しかない。ゼロックスと競合するリコーが、北米複写機市場の急激な縮小で巨額損失を計上している現状を考えると、ゼロックスの買収が逆に富士フイルムの足を引っ張る可能性は十分にある。

 斜陽産業であっても規模の大きい企業を買収すれば、短期的には業績を拡大することができる。しかし、それは本当の意味での利益成長とは異なる。

 海外M&Aを実施するのであれば、高い成長が期待できる事業か、豊富なキャッシュフローが得られる事業に限定すべきという、教科書的な原理原則はやはり徹底されるべきだろう。