米国のイラン核合意破棄で原油価格は高騰するのか?

不発に終わる可能性が高い「さらなる原油高」のシナリオ

2018.05.11(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53057
  • 著者プロフィール&コラム概要

 強気筋にとっての決め手は「米国のイラン核合意破棄」である。イランの原油生産量は2015年の制裁解除以降日量約100万バレル程度増加し、現在同380万バレル超となっており、4月の輸出量も同約262万バレルと過去最高となった。だが、米国のイラン核合意破棄により輸出が低迷し、年末までに日量約50万バレルの減産を余儀なくされるとの見方が一般的である。

 2012年のイラン制裁時で最も効果的だったのは「イラン産原油の輸送船(タンカー)に対する保険付与」の中断だった。世界の船舶・貨物・事故賠償責任などの再保険市場を掌握しているEUの保険業界が、イラン産原油を運搬するタンカーに関する再保険契約を拒否し、タンカーを調達できないイラン産原油が行き場を失ってしまった。また当時、イラン産原油の大口購入者である中国とインドがイラン産原油の購入を手控えたため、イランの原油輸出は大きく減少した。

 だが、今回米国が核合意を破棄しても、EUが2012年当時の制裁を復活させることは想定しづらく、中国(日量65万バレル)やインド(日量50万バレル)はイラン産原油の購入を続ける可能性が高い。「米国の制裁が全面的に発効される11月までにイランは原油生産量を駆け込み的に増大させる」とする見方(ドイツ銀行)もあり、そうなれば逆に「失望売り」が発生するのではないだろうか。

足並みが崩れるOPECの協調減産

 米国の核合意破棄は、イランの原油生産にとどまらずOPEC全体の協調減産に悪影響をもたらすことは確実である。イランが米国の中東地域の最大の同盟国であるサウジアラビアとの協調に消極的になるからである。

 OPEC総会は6月22日に開催されるが、その時点までに「OECD諸国の原油在庫を過去5年間の平均にまで減らす」という減産目標は達成されることは確実な情勢にある。2016年12月時点ではイランとサウジアラビアは「原油価格を回復させる」という共通目標を掲げて「呉越同舟」の関係を築いた。だが、このところ原油価格を巡って両国の間に意見の相違が目立ってきている。

 サウジアラビアは「国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を後押しする狙いから、さらなる原油高を望む」とされている。サウジアラビア財政が均衡する原油価格は1バレル=88ドルである(国際通貨基金(IMF)調べ)。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が5月2日に発表した「2017年の世界の軍事費」によれば、サウジアラビアの軍事費は694億ドルでロシアを抜いて世界第3位となった(2016年のサウジアラビアの軍事費は637億ドル)。原油価格の上昇で生み出されたマネーの太宗が軍事費に回ってしまっていることから、サウジアラビアはさらなる原油高が不可欠な状況となっている。

3
スマートエネルギー情報局TOPに戻る
PR
PR
PR
バックナンバー一覧 »

POWERED BY

  • ソーシャルメディアの公式アカウントOPEN!
    TwitterFacebookページでも最新記事の情報などを配信していきます。「フォロー」・「いいね」をよろしくお願いします!
Twitter
RSS

 

経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

オリジナル海外コラム

米国、欧州、中国、ロシア、中東など世界の政治経済情勢をリアルに、そして深く伝えるJBpressでしか読めないオリジナルコラム。

>>最新記事一覧へ