シューベルト 「シューベルトのセレナーデ」

 フランツ・シューベルト(1797~1828年)は歌の作曲家である。「冬の旅」や「美しき水車小屋の娘」など、歌曲集をたくさん残している。「シューベルトのセレナーデ」という通称で親しまれているこの曲は、1828年に亡くなった作曲家の遺作を集めて翌29年に出版された歌曲集「白鳥の歌」の第4曲だ。切々と歌い上げているのは、恋人に対する心情である。

 シューベルトという作曲家がすごいのは、歌ったり楽器で演奏したりしていると、情感が自然にこもり、表情豊かに歌い出したくなることである。このセレナーデも、演奏を始めると恋人に対する切ない思いがあふれ出んばかりになる。

「セレナーデ」はこの時代にはすでに器楽曲の一つの形式として存在していたようだが、もともとは窓の下で恋人に対して自分の思いを届けるべく歌う歌のこと。シェイクスピアの戯曲「ロメオとジュリエット」でロメオがベランダの下からジュリエットに恋を語るシーンなどを想像すればいいかもしれない。「シューベルトのセレナーデ」においては、「セレナーデ」という言葉は原義に近い意味で使われているわけだ。ただ美しい楽曲として楽しむだけでなく、自分があたかも恋人に歌を聴かせているような状況を想像し、感情移入をしてみてはどうだろうか。

 ところでこの曲が収められた14曲からなる「白鳥の歌」という曲集名は、実に意味深だ。あるところで飼われていた白鳥が、殺されることが分かると、この世のものとも思えぬほど美しい声で鳴いたという物語がイソップ寓話にあり、「辞世」の意味を込めたのが「白鳥の歌」の名の由来なのだそうだ。ただしシューベルト本人ではなく、楽譜の出版者が名づけたもの。なお、イソップ寓話では白鳥は美しい声を出すことによって死から逃れている。この「セレナーデ」にも、殺すのを諦めさせてしまうほどの美しさがあると思うのだが、いかがだろうか。

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切ない恋愛感情に心を揺さぶられるクラシック音楽8選 下

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53051