内部の見どころは吹き抜けに設けられたプールだ。両側面には客室に通じる各階の廊下が通っているのだが、同時に真上から入る自然光でツル状の植物が緑に輝く。屋外のような屋内のような、どちらとも言えない空間だ。このプールを堪能できるのは、まずは晴れた日。光と影の強烈なコントラストは、亜熱帯建築ならではの楽しみと言える。

 しかし訪れた日の天候がたまたま悪くても、それほどがっかりすることはない。実は、自分が訪れた時もそうだった。雨が降り出すとプール上部の開口から細かな水のしずくが入り込み、光が当たってキラキラと輝きながら中まで落ちてくる。室内で雨が降っているような幻想的な情景に、しばらくの間、見とれていたのだった。

谷村美術館

谷村美術館、新潟県糸魚川市、設計:村野・森建築事務所、竣工:1983年

 「谷村美術館」は、北陸新幹線の糸魚川駅からすこし離れたところにある小さな美術館。隣接する日本庭園が木々の緑や池の水で豊かな自然の趣きを感じさせてくれるのとは対照的に、回廊に囲まれた中庭は植物もほとんど植えられておらず、白い小石が敷き詰められただけと殺風景。その奥にある巨岩のような存在が美術館の建物だ。

 スタッコ吹き付けによるざらついた質感の仕上げは、シルクロードの砂漠地帯の家をイメージしたとされる。中へと入ると、床から壁、壁から天井が曲面で滑らかに連続している。壁は外装と同じく土がそのまま立ち上がったかのような吹き付け仕上げで、洞窟の中に入り込んだかのようだ。

 展示されているのは彫刻家、澤田政廣による金剛王菩薩、光明仏神、弥勒菩薩などの仏像だ。展示室は四角ではなく丸い部屋で、一体ごとに異なる空間が与えられている。意外なところに設けられたスリットから外光が入り込み、壁に当たって拡散し、それぞれの仏像を浮かび上がらせる。濃密な空間体験だ。

 設計したのは、世界平和記念聖堂や日生劇場などを手がけた戦後日本を代表する建築家のひとり、村野藤吾。その最晩年の作品に当たる。モダニズムから数寄屋建築まで幅広い作風をこなした建築家だが、ここでは古今東西の建築様式を超越した自由さがあふれている。名匠が達した建築設計の境地を味わおう。

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