なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問

考究:食と身体(1)主神ジュピター篇

2018.04.27(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

エネルギー調達の仕組みも持つ

 一方で、バクテリアの菌体を維持するにはエネルギーも必要である。エネルギーがなければ、物質の取り込みも取り込んだ物質の有効活用もままならない。

 光合成などの過程を除き、ほとんどの生物のエネルギーは「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質を使ってやりとりされる。そして、そのATPを効率的に合成する装置、「ATP合成酵素」をバクテリアは持っている。このATP合成酵素は大量のエネルギーを生産できるため、この装置を持つバクテリアは、刻々と変動する地球環境において圧倒的に有利な存在となり、生育範囲を拡大していった。まさにATP合成酵素は、数多(あまた)の戦いを勝利に導いた「ジュピターの雷」のような強力な生存ツールなのだ。

 実は、バクテリアのATP合成酵素とほぼ同じものが、私たちの細胞内のミトコンドリアという構造体にもある。ミトコンドリアは、大昔に細胞へ共生したバクテリアと推測されており、元はバクテリアなのだからATP合成酵素があって当然である。つまり、ヒトの細胞一つひとつにも「ジュピターの雷」が内蔵されているということになる。

 こうしてみると、「なぜ食べるのか?」と言う問いに対する細胞レベルでの答えは、「細胞を維持するための材料とエネルギーを調達するため」ということになる。それは身体全体に対しても、原理的には同じということになろう。

哺乳類のミトコンドリア。透過型電子顕微鏡で撮影。(写真作者:Louisa Howard)

「いかにして食べているか」の考究へ

 ここで、私たちの「日常の食事の場面」をイメージしてほしい。私たちはその食事で、細胞がそのまま吸収できそうなアミノ酸や糖類だけを摂取しているわけではない。肉も食べれば野菜も食べる。食べたものは、消化器官で消化したうえで体内に吸収している。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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