「工夫・努力・苦労に驚き、面白がる」という方法では、結果という外側に起きたことに一切注目しない。特にほめない。なのに結果がどんどん出てくるのはなぜだろうか。工夫するからだ。失敗したとしても次こそうまくいくように、と工夫を重ねることをやめようとしない。

「今度こそうまくいくかも」とワクワクしているから努力を努力とも思わずに努力するようになる。今度こそうまくいくように、と願っているから、苦労を苦労とも思わず、実現しようと粘る。

人間は工夫を楽しめる生き物

「工夫・努力・苦労に驚き、面白がる」という方法は、いわゆる「GRIT」(やり抜く力、成功するまで粘り強く取り組む力)を育てる、もっとも端的な方法だと筆者は考えている。工夫をやめず、努力を怠らず、苦労をいとわない人間は、いつか必ずうまくいく方法を見つける。これぞGRITそのものではないか。

 行動遺伝学では、「GRITは生まれつきの能力であって、教育で授けることはできない」と考えている研究者が多いようだ。しかしどうも、私にはそうは思えない。私がこの方法にたどり着いてから、GRITを身につけてもらうことはそんなに難しくない。

 なぜって? 自分で工夫を考え、努力と苦労を重ねた上にうまくいった経験は、本当に嬉しいから、何度でも同じ体験をしたいと願うようになるからだ。

 人間は本来、学ぶことも働くことも大好きな生き物だと考えている。それは、工夫に工夫を重ねた結果がうまくいくと快感を覚えるように、私たちの心ができているからだ。試行錯誤の末に難しかったパズルを解いたり、クイズに答えたり、ゲームを攻略するのと同じ。人間は工夫することが大好きで、その工夫がうまくいくかどうか、努力したり苦労したりするのも大好きなのだ。

 私は「ほめる」という言葉が実はあまり好きではない。ほめるという「ごほうび」で人を釣ろうとしていると感じるからだ。しかし工夫に驚き、面白がる人がそばにいるだけで、人間は学ぶ楽しさ、働くことの面白さを「思い出す」。あとは自ら楽しんでもらえばよい。

 人間はもっと楽しめばよいのだと思う。工夫をこらし、そのために努力と苦労を重ねることほど、楽しい作業はなかなかないのだから。