しばらく泣かせておき、落ち着いた頃に次のように伝えた。

「ミスは誰にでもあるから仕方ない。でもキミの場合は、ミスがないか見直してから提出することをしないだろ。提出する前に見直しを3回やってごらん。自分がどんなミスをしやすいか、パターンが分かってくるはずだ」

 それまでは全く見直しせずに提出していた(このことこそ、字のミスを全く気にしていない証拠なのだが)が、おろそかであるとはいえ、提出前に見直しするようになった。もちろん、いい加減な見直しだから、ミスを見落として、またバツを食らった。しかし大きな変化がここで起きた。

「正確に書こう」と意識していたのから、「間違いをどうやったら見つけられるか」に意識がシフトした。書き写している最中は、自分がミスをしているのかどうか自覚しにくい。しかし見直しの時間に、自分がミスしやすいパターンはどこなのか、注意深く観察することに意識がいくようになった。

 すると、見直しの時間にミスを発見する確率が高くなり、その分、正確に写せることわざが増えた。ミスを発見するコツが分かってくると、自分がどういうミスをしやすいのかが自覚でき、書き写す際にも「ありがちなミス」に注意して書く、というフィードバックができるようになった。

 3時間のうちに10個書き写すこともできなかったのに、2時間ノーミスで何十個も正確に書き写すことができるようになって、この訓練を終えた。それから中学校の学習内容に移ると、着実に成績が伸びていった。スペルミスのせいで「分かっているのか、いないのかが分からない」状態だったのを脱したのだ。

 自分は着実に成長できているのだろうか? それを実感するには、自己効力感が得られていることが前提となる。それがなければ、自信をもって難題に取り組むことが楽しめない。「自分は、いつまでたっても分からないままではないか」というぬかるみに足を取られた感覚では、成長意欲が失われるのだ。

今、ここに意識を集中する

 もう1人は、全く別の形で自己効力感を持てずにいた。その子は高校生だったが、分数の理解から怪しかった。そこで小学3年生のドリルを与えて、分数から鍛え直すことにした。ところが、分数を学ぶ以前に、大きな問題があることが発覚した。

「タマシイが飛んでいく」のだ。「このドリルをやってね」と声をかけると「ハイ」というよい返事。ところが10分後に戻ってくると、ドリルの向こう側の景色を見るように、目がうつろ。「おい」と声をかけるとハッとして、またドリルに取り組もうとするのだけれど、1分もたたないうちにタマシイがどこかへおでかけしてしまう。