これらは、HRテクノロジー活用の先進企業で聞かれた言葉だ。HRテクノロジーは、個の可能性を引き出し、それによってイノベーションを生み出すことを可能にする、と彼らは考えている。多様な「個」の可能性を広げるためにこそ、テクノロジーをフル活用する必要があるのだ。

 では、多様な「個」を生かすためには、人事はどのように変わる必要があるのだろうか。それは、声の大小にかかわらず、各自の強みや仕事上の手柄を均等に評価し、処遇に反映できるシステムへの転換である。

人事の「個別化」を目指すべき

 このようなシステムを実現するためには、一人ひとり異なる働き方に対するニーズと、仕事内容や処遇との個別マッチングを実現していく必要がある。すなわち人事の「個別化」である。この考え方自体は10年近く前から提唱されてきたが、いまだ多くの企業では実現していない。

 人事の「個別化」が実現できていない最大の理由は、人材と仕事との関係を十分に科学しきれていなかったからである。

 たとえば、アサインメントひとつ取ってみても、複雑性は極めて高い。なぜなら、1つのジョブをどのようなタスクに分解してアサインするのか、誰と組ませるとシナジーが最大化するのか、人材育成をどの程度考慮するのかなど、考えるべき変数が多いからだ。

 その結果、いまだに、人事部や現場のマネジャーが勘と経験を駆使して、「えいやっ」でアサインメントの意思決定をするケースが散見されるのである。