目的地に向かう人や、到着した人が、立ち去っては降り立ち、また去っていく駅は、さまざまな人の、さまざまな人生が、ほんの一瞬、交錯する場所であると同時に、例えば空港と比べても、それぞれの街の空気感や時代を如実に映し出す。

 考えれば考えるほど、駅ほど物語やドラマの舞台にふさわしい場所はないかもしれない。

「見る」ポイントを伝授

 首都ネピドーから120キロほど北上すると、タージィー駅がある。最大都市ヤンゴンと、第二の都市マンダレーを南北に結ぶ幹線鉄道や、貨物鉄道など、複数の線が乗り入れる、沿線では比較的大きな駅の1つだ。

 英領植民地時代に建てられ、築100年を超える駅舎に鉄骨が使われていることからも、当時、イギリスがどれだけこの駅を重視していたかがうかがえる。

 緑のペンキで塗られたドアや窓枠、そして周囲の木々の葉が、赤く塗装されたレンガ積みの外壁によく映え、一見、かわいらしい雰囲気が漂うこの駅では、これまで、どんな人生模様があったのだろうか。

 2017年5月、このタージィー駅の構内を歩き回る1人の日本人男性の姿があった。オリエンタルコンサルタンツグローバル(東京・渋谷区)の古澤圭太さん。

それぞれの駅で描いたスケッチを見返す古澤さん

 前出の幹線鉄道を近代化するために派遣されているJICA調査団の一員で、駅舎の建築計画を担当している。

 フェーズ2区間(タウングー~マンダレー:約350キロ)の駅の現状を把握するとともに、建て替えが必要な駅と改修ですみそうな駅がそれぞれどのぐらいあるか把握するため、全55駅を10日間かけて回っているところだ。

 手元のレーザーポインターで壁から柱までの距離を計測したり、手元のノートにラフなスケッチを描いたりする古澤さんの様子を、ミャンマー国鉄(MR)の職員3人が興味深げに見守る。

 その中の1人、カーンヘットソェさんは、古澤さんが続いて写真を撮り始めたのを見ると、横に並んで古澤さんと同じアングルでカメラを構えてみせた。

一見、しっかりした造りに見える駅舎の壁にも、天井から床までくっきりとクラックが走っている